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当時、ホルターマン氏は、仕事中の活動量が多い人たちは、職場で体を動かすことが健康に繋がると信じているが、実際にはその見解は間違っている可能性があるとコメントしています。
さらに、仕事中によく動く人たちであっても、余暇時間に運動すれば健康に良い影響が期待できるものの、現実的には仕事で疲れ果ててしまい、余暇時間に運動するのは難しいとも述べています。
このように、身体活動パラドックスという現象は、俗説レベルではなく、信じるに足るきちんとしたエビデンスがあります。
では、なぜ仕事中に体を動かすと健康が脅かされてしまうのでしょうか?
ホルターマン氏は、建築業、配送・運送業など、仕事中の活動量が多い職種の体の動かし方と余暇時間でよく行われているウォーキングやジョギング、サイクリングといった運動との間には、根本的に違いがあり、これが体に異なる影響を与えていると指摘しています。
まず、仕事中に体をよく動かす職業であっても、その際の強度は低く、長時間にわたって続くことが多いです。これは、健康リスクを下げるために役立つ心肺機能を高めるのには不十分で、効率的な運動とは言えません。
次に、こういった仕事中の身体活動では、心拍数が上がり続け、重い物を持ったり同じ姿勢を長時間続けたりすることで、血圧が高くなりやすいです。これでは、心臓に負担がかかり、長期的には健康を損なう可能性が高まってしまいます。
また、仕事中は、十分な休息が取りにくく、自分のリズムでコントロールできないためストレスが溜まりやすく、長時間の活動が炎症状態を引き起こすこともあります。
加えて、仕事中の活動量が多い労働者は、学歴や収入、婚姻状況などの社会経済的地位が低いことが多く、こういった背景の方が結果に影響しているのではという指摘も多々あります。 実際、こうした労働者は適切な医療を受ける環境が整っていないことが多く、健康管理が難しい状況にあるようです。
まとめると、身体活動パラドックス現象の背景は複雑で、仕事中の運動が問題を引き起こすだけでなく、こういった人たちの置かれている状況も影響している可能性があります。
さて、私たち日本人の多くは、座りがちな生活が問題視されています。
特にデスクワークが中心の職業では、仕事中の身体活動が少ないことが大きな社会問題となっていて、本記事の読者の中には、軽いストレッチや筋トレ、階段昇降など、むしろ仕事中の身体活動を高めた方が健康に繋がる場合もあるでしょう。
ただ、身体活動パラドックスという現象は、何が何でも体を動かすことが健康に良いと解釈するのは正しくないことを教えてくれています。
自分に合った適度な運動の取り方や適切な休息とのバランスを見つけることが、健康の維持、増進には不可欠と言えるでしょう。
参考文献
Leisure physical activity is linked with health benefits but work activity is not
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/04/210408212952.htm
元論文
The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults
https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehab087
The physical activity paradox: six reasons why occupational physical activity (OPA) does not confer the cardiovascular health benefits that leisure time physical activity does
https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097965
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。