「賢い」と思われる人には多くの国で共通する特徴があったようです。

カナダ・ウォータールー大学(University of Waterloo)の研究チームは最近、11カ国における約2700名の参加者を対象に「どういう人を賢いと思うか」を調査。

その結果、どの国でも「内省的で論理的に思考し、他人の感情を思いやって気遣うことができる人」が最も賢い人と捉えられていました。

研究の詳細は2024年8月14日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • 「賢さ」は文化圏によって変わるのか?
  • どの国でも共通する「賢さ」があった!

「賢さ」は文化圏によって変わるのか?

「賢さ」は文化圏によって変わるのか? / Credit: canva

「賢さ(wise)」はどの国においてもポジティブな社会的判断です。

その一方で、文化圏の違いを越えて、人々が「賢さ」をどのように認識しているかは依然として不明でした。

研究者たちの事前の予想では、思想や言語、宗教の違いによって「どういう人を賢いと思うか」は変わってくるのではないかと考えられています。

例えば、個人主義が重要視される社会では、他者を思いやる能力に長けていても、個人の思考がキレッキレで、次々と発明をしたり、起業したりする人ほど「賢い」と思われるかもしれません。

反対に集団主義が重要視される社会では、個人の論理的思考が多少未熟でも、周囲と足並みを揃えて、他者を思いやり、集団を率いてまとめる力を持つ人ほど「賢い」と思われる可能性があります。

要するに、ある文化圏では賢明だと思われることが、別の文化圏では愚かだと見做されるかもしれないのです。

そこで研究チームは様々な国に住んでいる人々を対象に「賢い」と思う人の特徴を調査することにしました。

どの国でも共通する「賢さ」があった!

本調査では、11カ国における社会経済的・文化的な程度が異なる16のグループから募った2707名の参加者に協力してもらいました。

対象国となったのは、南北アメリカ(カナダ・アメリカ・エクアドル・ペルー)、アジア(中国・インド・日本・韓国)、アフリカ(モロッコ・南アフリカ)、ヨーロッパ(スロバキア)です。

参加者の平均年齢は30歳で、男女比は国によって少し違いますが、全体的としてはほぼ半数ずつとなっています。

調査では、科学者、政治家、教師を含む10名のモデルロールを用紙上で設定(※ 10名の中には参加者本人も含まれている)。

例えば、科学者なら「モーガン博士は植物、動物、人間についての情報を集め、世界を理解する科学者である」と記載され、政治家なら「政治家のケンデルは、選挙で選ばれた政治指導者(首長や市長など)で、何百人もの人々を代表している」と記載されています。

教師なら「アレクシスは学校の教師で、12歳の子どもたちに地元の歴史や文学について教えている」とあり、医師なら「ケリー先生は15年にわたり人々の病気を治してきた医学博士である」と記載されています。

賢いと思われる人には2つの特徴があった / Credit: canva

そして参加者には、この10名の中からランダムに2人のペアを提示し、はっきりとした正解・不正解のない現実の困難なシナリオ(人生の節目の重要な決断など)で、どのような行動を取ると思うかを比較してもらいました。

例えば、「この人物は困難な状況で他者の意見を考慮すると思うか?」とか「この人物は感情をコントロールし、冷静に判断できるか?」などを5段階評価してもらいます。

その後、参加者は自分自身を含め、10名の対象人物の賢さの程度を評価するよう求められました。

チームはこれらのデータを通して、最も賢いと評価された人に見られた特徴を分析。

その結果、どの国のどの文化圏においても、次の2つの特徴が「賢さ」と関連づけられていることがわかりました。

それが「内省的・論理的思考」「社会的・感情的認識」の2つです。

内省的・論理的思考には、行動する前に考えること、論理的かつ多面的に考えること、冷静に変化を認識すること、感情をコントロールすること、知識や過去の経験を活用することといった特徴が含まれます。

社会的・感情的認識には、他者の感情を思いやり気遣うこと、自分を客観的に認識し謙虚さを持つことなどが含まれています。

研究主任のマクシム・ルドネフ(Maksim Rudnev)氏は「驚いたことに、この2つの領域は私たちが調査したすべての文化圏で出現し、どちらも賢さの明確な特徴として認識されていました」と話します。

「冷静で論理的な思考」と「相手を思いやる気持ち」が賢さに関連づけられる / Credit: canva

ただしここで一つ、重要な傾向も見出されました。

それは人々が「社会的・感情的認識」よりも「内省的・論理的思考」の方を賢さの第一条件として重きを置いていたことです。

「社会的・感情的認識」は「内省的・論理的思考」が満たされて初めて、賢さの特徴として貢献していたのです。

例えば、具体的な例として、他者を思いやる能力が高くても、論理的な思考力が低い人の場合、自分の経済力や後先のことを考えずに、無差別に寄付をしたり、人助けに邁進する可能性があります。

当然こうした人は善良ではあっても、「思慮が浅く、お人好しなだけ」と思われ、賢いとは認識されません。

そのため、ここでいう人の感情を思いやることができる賢い人というのは、自分と異なる考え方の人に対しても理解することに努め、冷静に対応できる人を指しているのでしょう。

討論番組など見ていても、自分と異なる意見にすぐムキになる人はあまり賢そうに見えませんが、自分と異なる考えの相手でも冷静に意見を聞いてなんとか相手の理解に努めようとしている人は賢そうに見えるでしょう。

つまり、冷静に内省して思考できる能力が土台にあってこそ、他者を思いやる能力が「賢さ」に結びつくと考えられるのです。

今回の知見は、世界中の人々がどのような指導者や教育者、その他の影響ある人々を賢いと判断し、信頼・支持するのかを理解する助けとなると研究者らは話しています。

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参考文献

People seen as wise share these characteristics, according to a new study
https://uwaterloo.ca/news/media/people-seen-wise-share-these-characteristics-according-new

元論文

Dimensions of wisdom perception across twelve countries on five continents
https://doi.org/10.1038/s41467-024-50294-0

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「賢い」と思われる人の条件は相手を思いやれること!11カ国で共通