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例えばこれまでには、「小惑星や彗星を火星の表面に衝突させて、水蒸気やその他の温室効果ガスを放出させる」というアイデアがありました。
また、「強力な温室効果ガスであるフロンを排出する工場を火星に建設する」というアイデアもありました。
ちなみに火星では材料となるフッ素が希少なため、火星でフロンを製造するには、地球から膨大な量のフッ素を運ばなければいけません。
いずれにせよ、非現実的な計画だと言えますね。
そんな中、アンサリ氏ら研究チームは、「より現実的な(と主張する)」火星温暖化計画を発表しました。
アンサリ氏らが提案したテラフォーミングは、「人工ナノ粒子で火星を覆う」というアイデアです。
しかし、人工ナノ粒子を地球から運ぶわけではありません。
火星に元々存在している材料を使って人工ナノ粒子を作るのです。
火星には大量の塵があり、これまでの調査からその塵には鉄とアルミニウムが豊富に含まれていることが分かっています。
これら塵の粒子自体は、その異なる形状や組成ゆえ、火星を温めるというよりも、むしろわずかに冷やしてしまいます。
しかし研究者たちは、この火星の粒子を短い棒状の粒子へと加工し、特定の形状や大きさに揃えることで、温暖化に役立つことを発見しました。
長さ約9μmのナノ粒子(サイズ的にはマイクロ粒子だが、本記事では論文の表記に合わせてナノ粒子と呼ぶ)へと加工することで、火星から逃げる熱を閉じ込め、太陽光を地表に向けて散乱させることができるというのです。
そしてこのアイデアでは、これらのナノ粒子を高さ10~100mのパイプを使って、毎秒30リットルの割合で火星の空に放出します。
火星で発生する上昇気流を上手く利用できたなら、高度60kmまでナノ粒子を拡散させることができます。
このナノ粒子の放出を続けるなら、わずか数カ月で効果が表れ、最終的には「火星の表面温度を30℃以上、上昇させることができる」ようです。
もちろんこれだけでは、まだまだ地球の平均気温には及びませんが、それでも気温が上昇する夏場には火星の氷が溶けて液体の水が得られるかもしれません。
このことは、微生物が繁殖できる環境が作られることや、地球から持ちこんだ植物の成長が促進される可能性を示しています。
ちなみに、研究チームによると、ナノ粒子の製造に必要な70万m3の金属を得るためには、毎年2000万m3の火星の塵を処理しなければいけません。
これは地球の年間金属生産量の3000分の1に相当するため、かなり大規模な製造が必要になることを示唆しています。
また、ナノ粒子の放出を停止すれば温暖化も数年以内に止まってしまうため、一度実行したなら、放出しつづけなければいけません。
この新しいアイデアもかなり難しいように思えますが、研究チームによると、「これまでに提出された火星温暖化のアイデアよりも5000倍以上効率的」とのこと。
ただし、これが仮に実現できたとしても、人間が火星で生活するための条件全て(大気など)が整うわけではなく、研究チームは、「長年の夢に一歩近づく可能性を秘めたアイデア」として報告しています。
人類の居住地候補を人工ナノ粒子で覆うことが、本当に私たちの夢に近い状態なのかは疑問ですが、今後も、より実現可能なアイデアが提出されるのを楽しみにしたいものです。
参考文献
How we could warm Mars
https://news.northwestern.edu/stories/2024/august/how-we-could-warm-mars/
New Mars terraforming idea: engineered, heat-absorbing dust nanoparticles
https://www.space.com/mars-terraforming-engineered-dust-nanoparticles
元論文
Feasibility of keeping Mars warm with nanoparticles
https://doi.org/10.1126/sciadv.adn4650
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部