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そのためノイズをADHDの改善に役立てようという考えはまったく新しいわけではありません。
特に以前から注目されていたのは「ホワイトノイズ」と「ピンクノイズ」です。
ホワイトノイズとは、すべての音の周波数で同じ強度となるノイズのことで、例えるなら雨が振っているような「シャー」という音に聞こえます。
ホワイトノイズには背景の雑音を効果的にマスキング(覆い隠す)する働きがあり、睡眠を助けたり、集中力を高めるために使用されることがあります。
ADHD治療においては、この働きが患者の注意散漫を減少できるのではないかと考えられています。
こちらがホワイトノイズのサンプル音です。
(※ 音量にご注意ください)
それからピンクノイズとは、低周波数が強調されたノイズのことで、周波数の低い音ほど大きく強く聞こえます。
このため、ピンクノイズは大雨や滝のような自然音に似ており、リラックス効果があると言われています。
こちらがピンクノイズのサンプル音です。
(※ 音量にご注意ください)
そこで研究チームは過去の研究のメタ分析によって、ホワイトノイズとピンクノイズへの曝露がADHD患者のタスク遂行能力にどんな影響を与えるかを調べてみました。
本調査では科学論文のデータベースを検索し、ノイズへの曝露とADHD患者のタスク遂行能力との関連性を調べた研究を集め、系統的にメタ分析しました。
最終的に13件の論文が集まり、そこには主に子供と大学生の若年成人を対象とした335名のADHD患者のデータが含まれています。
そしてホワイトノイズとピンクノイズのそれぞれに曝された条件での注意力・集中力・記憶力を含む認知機能を調べました。
その結果、ホワイトノイズとピンクノイズはADHD患者の認知機能を改善し、タスク遂行能力をわずかではあるが有意なレベルで向上させていたことが明らかになったのです。
その効果は従来の薬物治療よりは小さかったものの、副作用がないことやコストがかからないこと、気軽に実施できることを考えれば、非常に有益な治療アプローチになると期待できます。
また興味深いことに、ノイズ曝露によるプラスの効果はADHD患者にのみ見られ、健康な被験者がタスク遂行中にノイズ曝露された場合、わずかながらタスク遂行能力が落ちることがわかりました。
これはホワイトノイズやピンクノイズがADHD患者の認知機能を高めるのには効果的であるが、そうでない人にとっては単に気が散るものになっている可能性を示唆するものです。
ホワイトノイズを聞くと集中できる、雨の音があると落ち着く、という意見は昔からよく聞かれますが、一方でそうした意見がまったくピンとこないという人もいるでしょう。
今回の研究結果を見ると、こうしたノイズ音から感じる印象の違いは、ADHD傾向があるかどうかが関連しているのかもしれません。
チームは今後、新たなADHD治療法としてのノイズの可能性を深く理解するために、より大規模な集団を対象に厳密な臨床試験を行う必要があると考えています。
ある程度の効果が認められたからと言って、ノイズ音を長時間聞き続ける行為が健康に良いとは言えません。
そのためノイズを1日にどれくらいの頻度や時間、音量で聴けばよいのか、どのようなシチュエーションで聴くと効果が最大化できるのかなど、具体的な治療手順の確立が必要です。
それらが確かめられれば、ホワイトノイズやピンクノイズは誰でも手軽に聴けるものなので、コストや労力なく自宅で簡単に治療ができるようになるかもしれません。
研究主任のジョエル・ニッグ(Joel Nigg)氏は「今回の結果を臨床に反映させるには更なる研究が必要ですが、ここで得られたノイズ治療の効果は勇気付けられるものです」と話しています。
参考文献
White and pink noise show promise in enhancing attention in those with ADHD
https://www.psypost.org/white-and-pink-noise-show-promise-in-enhancing-attention-in-those-with-adhd/
White, pink noise improve focus for children with ADHD, OHSU study shows
https://news.ohsu.edu/2024/08/09/white-pink-noise-improve-focus-for-children-with-adhd-ohsu-study-shows
元論文
Systematic Review and Meta-Analysis: Do White Noise or Pink Noise Help With Task Performance in Youth With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder or With Elevated Attention Problems?
https://doi.org/10.1016/j.jaac.2023.12.014
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部