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この疑問について研究を行っているのが、アメリカのテキサス大学オースティン校に所属するライディ准教授です。
彼女の研究結果によると、食欲をコントロールする鍵は高タンパク質な食事の実践にあるようです。
例えば、ある研究では、太り気味の男性が普通の食事と高タンパク質の食事を食べたときの違いを調べた結果、同じカロリーの食事でも、高タンパク質食をとると、お腹がいっぱいに感じ、食欲を抑えるホルモンが多く出ることが分かりました。
また、別の研究では、太り気味の女性にカロリー制限を12週間させたところ、普通の食事では食後の満腹感が大きく下がったのに対し、高タンパク質食では満足感がむしろ高くなったことも報告されています。
このように、高タンパク質食は食欲をコントロールするのに役立ちますが、その理由は、脳の反応が関係しています。
私たちの脳は、糖質や脂質がたっぷりのカロリーが高い食べ物を見ると「食べたい」と反応します。
しかし、高タンパク質食を摂ると、この「食べたい」という反応が弱くなるのです。
つまり、高タンパク質食を習慣にすると、甘いものや脂っこい食べ物への欲求が減り、結果的に摂取カロリーを減らすことができるのです。
高タンパク質食のメリットは、食欲のコントロールの他にもあります。
愛知医科大学の前田圭介特任教授らの研究グループが2024年6月に発表したメタ分析では、太りすぎの人たちが体重を減らす際のタンパク質の摂取量について詳しく調べています。
その結果、減量プログラムに取り組んだ際に、タンパク質の摂取量を増やすことで筋肉量の減少を防ぐことにつながることが分かりました。
具体的には、1日で体重1kgあたり1g未満のタンパク質摂取では筋肉量の減少リスクが高くなるのに対し、1.3g以上の摂取では逆に筋肉量の増加が期待できるという結果です。
仮に一時的に体重を落とすことに成功しても、脂肪ではなく筋肉が落ちた場合には、基礎代謝の低下や健康リスクの増加など、中長期的なデメリットが大きく、リバウンドもしやすくなります。
そういった健康面のデメリットを防ぐためにも、筋肉を作るための材料になるたんぱく質が豊富な食事はプラスに働きます。
また、従来、高タンパク質食は腎臓に悪いとされてきましたが、近年ではその見解を否定するエビデンスも報告されています。高タンパク質食が腎臓に負担を与えるとされる理由は、タンパク質を代謝処理する際に、腎臓のろ過機能が過度に活性化するというものです。
中国・南昌大学の研究グループが15万人近い人々のデータをもとに行ったメタ分析を見ると、総タンパク質、植物性タンパク質、動物性タンパク質(特に魚介類)の摂取量が多い人は、慢性腎臓病の発症リスクが低かったことが分かっています。
この結果は、タンパク質が腎臓に悪いとされてきた長年の懸念とは反対に、腎臓に対して高タンパク質食がむしろ保護的な効果を持つ可能性を示すものだとして注目されています。
以上、これまでに取り扱った研究を踏まえると、高タンパク質食は健康的なダイエットを成功させるための魅力的なアプローチと言えます。
ライディ准教授によると、特に朝食でタンパク質をしっかり摂ると、日中お腹が空きにくくなり、食欲コントロールにプラスに働くようです。
何かと忙しい朝は食べない、またはシリアルやパン、ジュースだけで済ませてしまいがちですが、これらの食事では十分なタンパク質はとれません。
最近では、コンビニでもプロテインドリンク、サラダチキン、サラダフィッシュ、ギリシャヨーグルトなど、高タンパク質な商品が数多く発売されています。
こういったメニューを常備しておき、朝一番に摂ることで、健康的に摂取カロリーを抑えるための1日のスタートが切れます。
「摂取カロリーを抑えよう」と思ってもついつい食べすぎてしまうという人は、タンパク質をしっかり摂ることを意識してみてはいかがでしょうか?
参考文献
Eating protein for breakfast will keep you slim: Scientists say going to work on an egg will stop you snacking at night
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2299835/Eating-protein-breakfast-slim-Scientists-say-going-work-egg-stop-snacking-night.html
元論文
Increased Dietary Protein as a Dietary Strategy to Prevent and/or Treat Obesity
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24645300
Enhanced protein intake on maintaining muscle mass, strength, and physical function in adults with overweight/obesity: A systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2024.06.030
Association between dietary protein intake and risk of chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.3389/fnut.2024.1408424
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。