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チームは以前の研究で、ヴァルチャーストーン(Vulture Stone=ハゲタカ石)と呼ばれる石柱に星座の図形が描かれている可能性があることを報告しています。
研究主任のマーティン・スウェットマン(Martin Sweatman)氏は今回、さらに一歩踏み込んだ分析を行い、ヴァルチャーストーンに”世界最古のカレンダー”が彫刻されていることを見出しました。
同氏は徹底的な分析をもとにその理由を述べています(イメージしやすいように下図をご参照ください)。
氏は石柱に刻まれている数多くの「V字」を数えて、その1つ1つが1日を表していると捉えました。
またV字が29個か30個ほど描かれており、それが1まとまりで1カ月を示している痕跡が見られたという。
その下の列で11カ月をプラスして計354日(太陰暦は29.5日×12カ月で354日)を数え、さらにその下には1太陽年(365日)に帳尻を合わせるように、10日間を足して364日とした記録がありました。
加えて、ハゲタカの彫刻の首辺りにV字が1つ描きこまれており、スウェットマン氏はこれが「夏至」を表していると指摘。
この1日を足して、合計が365日となるような暦となっていると説明しました。
氏の説明が正しければ、これは月の満ち欠けに基づいた354日周期の「太陰暦」と、地球が太陽を1周して365日とする「太陽暦」の両方を考慮した”世界最古のカレンダー”となります。
しかしスウェットマン氏は、さらに驚くべき発見が別の場所にあったと話しました。
それによると、約1万3000年前に地球に衝突した彗星が描かれていたというのです。
同氏がギョベクリ・テペにある別の石柱を調べていたところ、「おうし座流星群」を描いた可能性が高い彫刻が見つかったというのです。
おうし座流星群は約1万3000年前(おおよそ紀元前1万850年前とされる)に始まった「ヤンガードリアス」という寒冷化の原因の一つとされるものです。
彗星はガスや塵などを放出しながら太陽の周りを周回する天体です。そのため彗星の軌跡にはその断片が数多く残っています。そんな彗星の軌跡と地球の軌道が重なると、彗星の断片が地球の大気圏で次々に燃えて流星群という現象を起こします。
ヤンガードリアスについては、おうし座流星群を発生させる原因天体であるエンケ彗星の大きな断片が地球に落下し、これが空中爆発を起こした際に各地で火災や膨大な塵を上空に広げ、地球規模の寒冷化を引き起こしたという説があります。
この影響でアメリカ大陸に生息していたサーベルタイガーやマストドンと言った大型動物が絶滅したとされており、人類のライフスタイルが狩猟採集から農耕牧畜に変化するきっかけにもなったとも言われています。
ただヤンガードリアスの原因は未だ明確ではなく、彗星衝突(おうし座流星群原因説)はあくまでこれを説明する説の1つです。
ヤンガードリアスが彗星衝突によって起こったことを支持する証拠としては、北米を中心とする当時の年代の地層から特殊なナノダイヤモンドや溶融ガラスが見つかっていることが挙げられます。
これらはかなりの高温・高圧の条件下でしか形成されないため、彗星衝突で作られた可能性が高いのです。
その一方で、彗星衝突の説を否定する研究者も多く、火山活動や気候システムの自然な変動からヤンガードリアスが起こったとする意見もあり、議論はいまだに続いています。
しかし今回、ギョベクリ・テペに見つかった彫刻が本当に「おうし座流星群」を示すものであれば、ヤンガードリアスが彗星衝突で起こったとする説を補強するものとなるでしょう。
ただギョベクリ・テペの彫刻は、実際にヤンガードリアスが始まった時期から1000年ほど後の時代になります。
もしかしたら、当時の人々が祖先から長く言い伝えられてきた「彗星衝突」の出来事を忘れないために石柱に刻んだのかもしれません。
ヤンガードリアスは人々の生活スタイルをガラリと変革させた重大な出来事でしたから、その原因となった彗星衝突イベントを人々の記憶に刻むためにも、彫刻として残すことは理にかなっているでしょう。
スウェットマン氏の主張が正しいかどうかは定かありませんが、ギョベクリ・テペの住人たちが高度な知恵と観察力を持っていたことは確かなはずです。
参考文献
Ancient carvings may be world’s oldest calendar
https://www.ed.ac.uk/news/2024/ancient-carvings-may-be-world-s-oldest-calendar
Carvings in Ancient Temple of Göbekli Tepe Could Be Earth’s Oldest Calendar
https://www.sciencealert.com/carvings-in-ancient-temple-of-gbekli-tepe-could-be-earths-oldest-calendar
元論文
Representations of calendars and time at Göbekli Tepe and Karahan Tepe support an astronomical interpretation of their symbolism
https://doi.org/10.1080/1751696X.2024.2373876
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部