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例えば、現在最も研究が進んでいる「ワープバブル」を使った理論では、宇宙船の周囲の空間の圧縮や拡大といった方法で、実質的なワープを目指しています。
たとえば1光年先の星に行きたい場合、前方の空間を1光年から1kmに圧縮することができれば、簡単に辿り着くことが可能です。
「そんなことは不可能だ」と言う人もいるでしょうが、ブラックホールのような天体では極めて大規模な空間の圧縮が起きていることが知られています。
これまでの宇宙観測で超光速現象が確認されていないのは確かですが、空間の圧縮や膨張を示す多くの証拠が得られています。
ただ空間を伸び縮みさせただけでは、そこを通過する宇宙船も縮尺比に合わせて伸びたり縮んだりしてしまいます。
そのため1光年を1kmに圧縮しても、宇宙船が同じような比率で空間と一緒に圧縮してしまえば、内部の宇宙船にとっての道のりは1光年のままです。
そこでワープバブル理論では外部の空間の歪みから宇宙船を守るためのバブル(泡)を展開するというアイディアが用いられています。
このバブル内部は通常の空間が維持されており、宇宙船はバブルに包まれている間は外部空間の伸縮の影響を受けません。
もっとも、ワープバブルを使ったワープを実現するには、特殊なエネルギー源を見つける必要があるため、現状では実現していません。
しかし先にも述べたように、ワープバブルはそのアイディアの奇抜さの一方で、相対性理論に違反していません。
そのためワープバブルの挙動について、相対性理論をベースにした数値計算である程度予測することが可能となっています。
そこで今回、ワシントン大学の研究者たちは、奇抜なワープ文明の探知手法を思いつきました。
ワープバブルの特性を知ることで、ワープはできないけれどワープしている文明を探そうというアイディアです。
ワープドライブを成功させるにあたり最も重要なのは、ワープバブルの制御です。
ワープバブルの安定維持は空間を伸縮させるよりも遥かに困難であり、何もしなければすぐに、バブル内部の宇宙船や時空はバラバラに分裂するか、ブラックホールのように中心点に向かって崩壊していくと考えられています。
飛行機やロケットで例えるなら、エンジンや燃料の制御できず、空中爆発が起きてしまった状態と言えます。
そこで新たな研究では、ワープドライブを運用する恒星間文明でも、飛行機やロケットのような事故が起きているはずだと考えました。
異星人がどんなに優れた存在であっても、事故をなくすことはできないはずからです。
また調査対象を「事故」に限定したのにも理由はあります。
ワープバブルは安定して維持されている場合には、重力波などを発さないと考えられており探知することは困難です。
しかしワープバブルが制御を失い崩壊した場合、観測可能な重力波を放出する可能性があります。
そこで研究者たちは数値計算によってワープバブルが崩壊したときに、どのような現象が起こるかをシミュレーションで調べてみました。
先にも述べたように、ワープバブルは相対性理論で説明可能な現象であるため、崩壊したときの影響も相対性理論をベースにした仮想世界で予測することが可能です。
すると、ワープバブルの崩壊直後に負の物質エネルギーの波が放出され、その後、爆心地から正と不のエネルギーの波が交互に発せられることが明らかになりました。
上の図はその様子を示しています。
また崩壊したワープバブルの残骸からは、重力波のバーストも放出され、物質エネルギーの波とほぼ同じ速度で拡散していくことが示されました。
こちらの図では爆心地から重力波が広がっていく様子が示されています。
さらにワープバブルから発せられた重力波は、これまで観測された中性星やブラックホールの衝突によるものと比べて、かなり高周波であることもわかりました。
つまり重力波の周波数を調べることで、それが天体の衝突によって生じたものか、ワープバブルの崩壊によって生じたかを区別することができるのです。
現在の重力波測定装置は主に中性星やブラックホールの衝突など天体の衝突によって生じた低周波の重力波を測定することに特化しています。
しかしより高周波の重力波を捕らえられるようになれば、理論上、ワープバブルの崩壊も探知できるはずです。
もしワープバブル崩壊の痕跡が多い場所を特定できれば、恒星間文明が使用する「航路」や「基地」あるいは「戦場となった場所」を知ることができるかもしれませんね。
参考文献
What no one has seen before – simulation of gravitational waves from failing warp drive
https://www.uni-potsdam.de/en/headlines-and-featured-stories/detail/2024-07-29-what-no-one-has-seen-before-simulation-of-gravitational-waves-from-failing-warp-drive
元論文
What no one has seen before: gravitational waveforms from warp drive collapse
https://doi.org/10.48550/arXiv.2406.02466
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部