- 週間ランキング
自分が好きで、自己評価が高い人を「ナルシスト(またはナルシシスト)」と呼ぶことがあります。
そして私たちが出会う人々の中には、この傾向がかなり強い人もいます。
そのような極度のナルシストたちは「私はいつも正しい」というような”非現実的な優越感”を持っています。
では、そのような極端な思考や感覚は、当人の内面にどのような影響を与えているのでしょうか。
フィンチ氏ら研究チームは、この点を調べるため、193人の参加者(18~40歳)を募集しました。
まず参加者たちは、質問票などの回答から、ナルシシズム、自尊心、感情状態のレベルが測定されました。
続いて彼らには、「ネガティブな気分を誘発するタスク(個人的な失敗を思い出して書き出すこと)」を行ってもらい、その後、「気分が良くなる将来の出来事」についても書き出してもらいました。
そしてこれらの実験から、参加者のナルシシズムのレベルと、タスクに現れる心理的機能の関連性を分析しました。
分析の結果、ナルシシズムのレベルが高い人は、それが低い人に比べて、大げさな言葉を使ったり、大げさな空想にふけったりする傾向が著しく高いと分かりました。
このことは、極度なナルシストが、誇大性(自分自身の能力や価値を実際以上に高く評価すること。非現実的な優越感)を示す傾向と合致しています。
また今回の研究結果により、ナルシストたちが示す非現実的な優越感(誇大性)が、彼らの気分を持ち直すのに役立っていることも分かりました。
一般的な人(ナルシストではない人)は、嫌なことがあった後に気分を持ち直そうとしても、そこまで上手にコントロールできません。
気分転換しようと努めても、ネガティブな感情がある程度残り、ポジティブな感情もそこまで高まることはないのです。
しかしナルシシズムのレベルが高く非現実的な優越感を示す人は、そのような一般人に比べて、ネガティブな感情を抑制し、ポジティブな感情を高めることができていました。
ナルシストたちにとって非現実的な優越感は、気分をコントロールするための効果的な手段だったのです。
ちなみに今回の研究では、一般的に広く言われる「ナルシスト」ではなく、病的なほどのナルシシズムを示す人に主に焦点を当てています。
一般的なナルシストは、「自己評価が高く、他人からの称賛や注目を求める傾向が強い」程度ですが、病的なナルシシズムを示す人は、より深刻であり、個人の精神的傾向や人間関係に深刻な影響を及ぼすことがあります。
また後者は、人格障害の1つである自己愛性パーソナリティ障害(NPD)とも密接に関わっています。
そのような人々は、「自分は世界の皆から愛されるべきだ」「俺は唯一無二の才能を持っている」などといった非現実的な優越感を抱くことがあり、この思考の傾向が、彼らが気分を持ち直すのに役立っているというわけです。
研究チームは、この効果を「短期的なメリット」と称していますが、「今後の研究で、その長期的な影響も考慮すべきだ」と続けています。
確かに、極度のナルシストたちが示す非現実的な優越感は、一時的には気分を上手く調節できるかもしれませんが、長期的にはデメリットの方が多そうです。
参考文献
Grandiose fantasizing appears to serve a vital psychological function for narcissists
https://www.psypost.org/grandiose-fantasizing-appears-to-serve-a-vital-psychological-function-for-narcissists/
元論文
Functional fantasies: the regulatory role of grandiose fantasizing in pathological narcissism
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2023.1274545
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部