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そこでパーサヴィアランスは火星上を歩き回って、岩石やレゴリスを収集し、そこに生命の痕跡を探す作業を孤独に淡々とつづけています。
そして今年7月21日、パーサヴィアランスは火星の北半球にある「ジェゼロ・クレーター」で、ついに生命の痕跡の可能性が高い試料を見つけることに成功しました。
ジェゼロ・クレーターは直径約49キロのクレーターであり、かつては水で溢れる湖水盆地だったと考えられています。
またクレーター内に水を供給していたのが「ネレトバ渓谷(Neretva Vallis)」と呼ばれる幅約400メートルほどの水路でした。
パーサヴィアランスは、現在では乾燥しているネレトバ渓谷の北側の辺りで、岩石に穴を空けて試料を採取しました。
研究チームはこの辺りの岩石を「チェヤバ・フォールズ(Cheyava Falls)」と名付けています。
そして採取した試料を探査車に搭載されている機器で分析した結果、生命の痕跡を示唆する化学物質が発見されたのです。
パーサヴィアランスが探査した「チェヤバ・フォールズ」の岩石には、白色をした硫酸カルシウムの鉱脈が走っています。
研究者によると、これは「火星にかつて水が流れていたことを示す証拠だ」といいます。
その一方で、白い鉱脈の間には赤茶色の岩石が広がっており、そこには不規則な形をしたオフホワイトの斑点がいくつも点在していました。
さらにそれらの斑点はヒョウの模様のように周りが黒い物質で縁取られていたといいます(下図を参照)。
チームはこれらの斑点をパーサヴィアランスに搭載されている「X線岩石化学用惑星計器(PIXL)」にかけて、どんな化学物質を含んでいるかを調査。
その結果、鉄とリン酸塩の他に炭素ベースの分子といった有機化合物が含まれていたことがわかったのです。
パーサヴィアランスの科学調査に参加している豪クイーンズランド工科大学(QUT)のデヴィッド・フラナリー(David Flannery)氏は「これらの発見にはとても驚かされました」と話します。
というのも「地球上の岩石だと、これと同じ化学物質の特徴は地表面下に生息していた微生物の痕跡とみなすことができるからだ」と説明します。
つまり、火星にまだ水が溢れていた数十億年前には、何らかの微生物が水中や湿った土壌の中に存在していた可能性があるのです。
しかし一方で、有機化合物は微生物の活動だけでなく、生物の力を借りない化学的プロセスでも作られることがあると研究者は指摘します。
そのため、現段階での証拠だけを見て「火星に生命がいた!」と断言することはできません。
それにはパーサヴィアランスが採取した岩石サンプルを地球に持ち帰り、直接精査する必要があるといいます。
今のところ、パーサヴィアランスが集めた試料を地球に持ち帰る計画は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)の協力のもと、2030年代に実施される予定です。
それまではまたパーサヴィアランスの孤独な探索が続けられるでしょう。
火星がかつて水の惑星であったことを考えれば、火星になんらかの生命の痕跡があっても不思議はありません。もしこの試料が地球に持ち帰られ、確かに生命の痕跡であったと認められれば、この発見が人類史上初の地球外生命との出会いになります。
参考文献
NASA’s Perseverance Rover Scientists Find Intriguing Mars Rock
https://www.nasa.gov/missions/mars-2020-perseverance/perseverance-rover/nasas-perseverance-rover-scientists-find-intriguing-mars-rock/
NASA Mars rover finds ‘first compelling detection’of potential fossilized life on the Red Planet
https://www.livescience.com/space/mars/nasa-mars-rover-finds-first-compelling-detection-of-potential-fossilized-life-on-the-red-planet
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部