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これまでの性科学研究によって、性行動は「男らしさ」を表現するのに重要な役割を持っていることが示されています。
個人的な会話の場で、男性はしばしば自分の性経験を積極的に公表し、自分がいかに性的に優れ、巧みであるかを誇示します。
また、知人男性の「男らしさ」を他人に伝えるときにも、性行動の情報は非常に大きな役割を果たしています。
ボクシング映画『ロッキー』で、主人公ロッキー・バルボアのリングネームは「イタリアの種馬」ですが、これは彼の「男らしさ」や「タフガイさ」を演出するためのものです。
また「100人斬り」「1000人斬り」といった性体験の多さを示す言葉も、特定の文化において男性の「男らしさ」を演出する効果があります。
一方、性行動の情報には性行為の頻度やパートナーの多さなどの量的なもの以外にも、相手をいかにオーガズムに導いたかといった質的なものも含まれます。
しかし既存の性科学研究は主に量的な面に焦点が置かれており、質的な面についてはまだ十分に研究が進んでいない部分もあります。
そこで今回、ペンシルバニアウェスタン大学の研究者たちは、女性をオーガズムに導く能力が「男らしさ」に与える影響を調べることにしました。
調査にあたってはまず522人の被験者が選ばれ、官能小説を読んでもらいました。
被験者の54%は男性で46%は女性であり、平均年齢は32.2歳でした。
小説の中には様々な性行為が描かれており、シナリオでは男性が女性をオーガズムに導く場合と導かない場合の両方が描かれていました。
また男性のシナリオには、勃起不全(ED)の場合やバイアグラを使用する場合が含まれていました。次に被験者たちは、小説に描かれている男性の「男らしさ」について評価するように求められました。
すると、性行為中に女性をオーガズムに導けた男性は、より「男らしく」また性的自尊心が高いと認識されることが判明しました。
逆に、勃起不全(ED)やバイアグラの使用は「男らしさ」の評価を低下させる要因になりました。
しかし、勃起不全(ED)の男性がバイアグラを使用して女性をオーガズムに導いた場合に限り、「男らしさ」が高いと評価されました。
一方、勃起不全(ED)でない男性がパフォーマンス向上のためにバイアグラを使用した場合には、「男らしさ」が低いと評価される傾向にありました。
この結果は、女性をオーガズムに導ける男性は、勃起不全(ED)であろうとなかろうと「男らしい」とみなされることを示しています。
ただし、勃起不全(ED)でない男性がパフォーマンス向上のためにバイアグラを使用する場合には、たとえ女性をオーガズムに導けても「男らしさ」は評価されないことが示されました。
そのため、研究者たちは「医学的に正当化されない場合、薬物の使用は『男らしさ』の規範に違反する可能性がある」と述べています。
続く調査では711人の被験者が選ばれ、同様に官能小説を読んで、登場する男性キャラクターの男らしさを評価するように求められました。
ただし今回の小説では、勃起不全(ED)についてではなく、男性のテストステロンレベルが高い場合、通常の場合、低い場合の3パターンが描かれました。
テストステロンは男性ホルモンの一種であり、男性の勃起能力や性欲の強さに関わることが知られています。
また、小説ではテストステロンを増やす薬が登場しており、男性キャラクターが使用する場合としない場合についても描かれました。
結果、天然のテストステロンのレベルが高い男性ほど、より「男らしく」また性的自尊心が高いと認識されました。
また、天然のテストステロンレベルが低い男性が治療目的で薬を摂取し、女性をオーガズムに導いた場合も「男らしさ」が高いと評価されました。
この結果は、自然なテストステロンの高さや女性をオーガズムに導くことが「男らしさ」に関連していることを示しています。
また、男性のテストステロンが低いときと正常なときでは、女性がオーガズムに達した場合、「男らしさ」の評価に違いはみられませんでした。
さらに、勃起不全(ED)の場合と同じく、医学的正当性がない場合、薬の力でテストステロンを高めて女性をオーガズムに導いても「男らしい」とはみなされませんでした。
以上2つの実験から、研究者たちは「たとえ男性が勃起不全(ED)やテストステロン減少に悩んでいたとしても、女性のオーガズムは男性の『男らしさ』を社会的に認識を高めることができる」と結論しました。
これまでの研究により、女性のオーガズムは、パートナー男性の精神面に多くのポジティブな影響を与えることが示されていますが、新たな研究では、病気により損なわれた「男らしさ」のイメージをも回復できることが示されました。
研究者たちは、多くの男性が女性のオーガズムにこだわる背景には、単に満足感や感情的な結びつきを得るだけでなく、自身の「男らしさ」のイメージを保つためもあるかもしれないと述べています。
参考文献
Female partner’s orgasm can ‘rescue’ masculinity lost to low testosterone, study finds
https://www.psypost.org/female-partner-orgasm-can-rescue-perceptions-of-masculinity-lost-to-low-testosterone-study-finds/
元論文
Social Perceptions of Masculinity and Sexual Esteem Are Impacted by Viagra Use, Testosterone, and Sexual Performance
https://doi.org/10.1007/s10508-024-02880-y
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部