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トランプ大統領を銃撃した犯人の身元に関する情報の中から、犯人がトランプ氏が属する共和党の党員であったことが判明しました。
この事実に関して、少なくない人々が「なぜ?」と疑問に思ったはずです。
普通に考えれば、共和党員の犯人にとって最も許せないのは、対立する民主党のバイデン大統領が当選してしまうことです。
共和党に属するトランプ氏と自分の政治的意見が一部合わなくても、民主党のバイデン大統領が当選してしまえば、より自分の意見と違う政策が多く実行されてしまうはずです。
しかし歴史的にみて、同じ政治的組織や宗教に属する仲間への暴力が、全く異なる政治的組織や宗教に属する人々に対する暴力よりも激しくなり得ることがわかっています。
例えば、キリスト教やイスラム教などの宗教では、異端に対する暴力が異教徒に対する暴力よりも激しかったことが知られています。
また、共産党内部でも、最終的に妥当すべき資本主義者に対しては攻撃しなかった人々が、同じ共産党内部の意見が違う人々に対して残忍な行為に及んだ例が多くあります。
American Politics Researchに掲載された別の研究では政治的ライバルに比べて同じ政治的所属を持つ人々に対する政治的暴力に対してより厳しい罰則を好む傾向があることが示されました。
この研究ではアメリカの南西部の大規模大学の学生 342 名を対象に実施されました。
調査に当たってはまず被験者たちに殺害予告を送った学生についての架空の報告書を読んでもらいました。
また報告書にはこの学生の政治的信条についても記載されており、支持する政党は民主党・共和党・またはランダムとされました。
次に研究者たちは被験者たちに対して、加害者にどのような罰則が望ましいかを尋ねました。
すると加害者の学生が自分の支持する政党と同じだった場合(被験者が共和党支持で加害者が共和党支持だった場合など)、被験者たちは加害者に対してより重い罰則を求めることが判明しました。
この結果から、人間は同じ政治的信念を持つ人間に対して、より厳しくなることがわかります。
他にも、身近な人や同じ組織内のメンバーとの対立は、感情的な反応を引き起こしやすくなることが報告されています。
これは「近接性の影響」として知られ、近い関係にある人々との対立が深刻化する現象を説明しています。
さらに、組織内の対立は「純粋性の追求」と関連していることも指摘されています。
特にイデオロギー的な組織では、内部のメンバーがそのイデオロギーに忠実であることが強く求められ、少しでも異なる意見やアプローチが「裏切り」と見なされ、激しい攻撃の対象となることがあります。
同じ政治的思想を共有する仲間だからこそ、細部の違いにより強く、許せないという気持ちが出てしまうのです。
このように仲間に対する厳しさ、接近性の影響、純粋性などの要因により、仲間内への暴力は敵に対する暴力よりもしばしば苛烈になり得ます。
今回の暗殺未遂事件は犯人が既に死亡しているため、詳しい動機については不明です。
ですがこれまでの歴史を振り返れば「同じ共和党員としてトランプ氏を成敗する」という名目を犯人が持っていたとしても不思議ではないでしょう。
元論文
Partisan Bias in Episodes of Political Violence
https://doi.org/10.1177/1532673X241236198
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部