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アメリカの南カルフォルニア大学(USC)で行われた研究によって、地球の内核の回転速度が減速しており、2008年を境に地球表面からみて逆転しているような動きになったことが示されました。
地球内核の回転速度についてはこれまでさまざまな研究が行われてきましたが、新たな研究では内核を貫通する地震波を分析に使用しており、説得力のある結論となっています。
研究者たちは内核の減速を示す地震データが複数もみつかっており「内核が減速している」という結果はほぼ確実であると述べています。
いったいどんな仕組みが地球の内核を減速させていたのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年6月12日に「Nature」にて発表されました。
目次
内核の大きさは月よりもやや小さい程度であり、私たちの足元から約5000キロメートル下に存在しています。
地球の内核は主に固体の鉄とニッケルで構成された球体であり、液体の鉄とニッケルから外核の中央に浮かぶように存在しているとされています。
地球の内部はドロドロと「溶けている」との印象を抱きがちですが、本当の中心部は硬い金属の球体でできているわけです。
このような内核の情報は主に地震波を使った研究により明らかにされてきました。
地球表面の地殻で起きた地震波は地球内部にも伝達されます。
振動の伝わり方は対象が固体か液体で大きく違うため、地震波を複数の地点で分析することで、内核が固体で外核が液体であることがわかります。
そのため地震データは地殻やその下側のマントルだけでなく、内核や外核を調べる際にも重要な役割をしているのです。
そこで今回、南カリフォルニア大学の研究者たちは、地震データを利用することで、地球内核の回転速度を調べることにしました。
調査にあたっては1991年から2023年の間に南極付近で発生した121回の地震データが用いられました。
この場所では何年にも渡り同じような地震が繰り返し起きており、地球内部を探査するソナーのような役割を果たしてきました。
通常の地震の場合、震源地を中心に震度などが記録されます。
しかし今回の研究において地震波が測定されたのは、上の図のように、地球の裏側にあたる北極に近い場所でした。
南極で起きた地震を北極で観測することで、地震波が内核部分でどのように変化したかを調べることができるのです。
さらに研究では自然な地震に加えて、核実験によって発生した地震波も活用されました。
すると、意外な事実が判明します。
地球の内核の回転は2008年までは表面に比べて早かったものの、2008年を境に逆に遅くなっていたのです。
上の図はその様子を簡単に示したもので、AからBが2003年から2008年の内核が表面に比べて速く回転してることを示しており、BからCは2008年から2023年にかけて内核の速度が表面に比べて遅くなっていることを示しています。
先にも述べたように内核の周囲は液体のため、内核の自転速度(角速度)が表面部分と違っていても、そのギャップで地球が砕けてしまうことはありません。
しかし地震波を調べるだけで、なぜ内核が減速していることがわかったのでしょうか?
内核を通過する地震波には、内核のどの場所を通ったかによって、ある種の特徴を持ちます。
同じ場所で発生した地震が同じ内核の場所を経由して記録された場合、その特徴は似たものになります。
もし内核が表面に固定された不動の状態であるならば、同じ場所で起きた地震から観測される特徴はおおむね同じものになります。
しかし実際の地震波を調査すると、その特徴が少しずつ変化していることが判明します。
さらに数十年のスパンでデータを分析すると、同じ特徴を持つ地震波が再び現れることが明らかになりました。
研究者たちは年月を経て現れた同じ特徴を持つ地震波を「ペア」と呼びました。
上の図は、ある年に観測された特徴と同じものが観察された年を記録したものになります。
左側の線の上に並ぶ点は内核が早かった時期のもので、右側の線の上に並ぶ点は内核が遅くなった時期のものです。
この研究者たちは「このペアが存在こそが、早かった内核が徐々に後退していく過程を示している」と述べています。
また過去のデータをもとに内核の速度変化を予測すると、内核の速度変化はおよそ70年の周期を持つ可能性が示されました。
さらに2008年を基準に前半と後半を別けると、前半と後半で速度変化が2.5倍も異なることが判明します。
つまり、みかけの速度がプラス100からゼロになるのに5年とすると、ゼロからマイナス100になる期間は12.5年かかっていたわけです。
また過去のデータを分析することで、内核の速度の変化にはおよそ70年の周期がある可能性が示されました。
しかしそうなると気になるのがその原因です。
研究では、主な原因が重力の不均衡にあると述べています。
地球の外核やマントル部分の密度は意外なほど不均一であることが知られています。
たとえば2023年に行われた研究では、月が作られる原因となった原始地球に衝突した惑星テイアの異物が、地球内部に不均一に分布していることを示しています。
研究者たちは、このよう不均一な外側の密度分布は不均衡な重力を発生させ内核の速度に影響を与えるのではないかと推測しています。
研究者たちは今後継続的にデータを収集し、内核の速度変化の長期的な推移を調べていくと述べています。
参考文献
USC study confirms the rotation of Earth’s inner core has slowed
https://today.usc.edu/usc-study-confirms-the-rotation-of-earths-inner-core-has-slowed/
元論文
Inner core backtracking by seismic waveform change reversals
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07536-4
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部