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そもそも隕石の落下自体は何も珍しいことではありません。
直径数センチ〜1メートル未満の隕石なら毎日のように地球に飛来しており、そのほとんどは地球の防護シールドである大気圏で燃え尽きています。
一方で、隕石のサイズが大きくなるほど、地球への衝突確率は低くなります。
その確率は直径10〜100メートル未満のものであれば、数百年〜数千年に一度。直径1キロ以上になると、数百万年に一度です。
さらにチクシュルーブ衝突体のような直径10キロを超える巨大隕石なら、数千万〜数億年に一度となります。
しかしチクシュルーブ衝突体が地球に与えたダメージは、その低確率を補って余りあるほど絶大なものでした。
まず隕石が衝突した瞬間、強烈な衝撃が地球を揺らすと同時に、太陽より何倍も明るい火球が出現します。
その温度は数千℃にも達し、一瞬にして地上の生物や草木を焼き払いました。
地上は一挙に焦土と化し、衝突地点から半径数千キロにわたって気温が100℃を超えたと考えられています。
加えて、落下した場所がユカタン半島沖だったため、海がひっくり返し、巨大な津波が発生しました。
しかも津波の高さは1000メートルを優に超えたとされており、海から離れた内陸部の動植物ですら一網打尽にされたのです。
また落下の衝撃で高く打ち上げられた膨大な数の巨大な岩石が、重力によって再び地上に引き寄せられ、地球規模で「死の雨」を降らしました。
これらはただの岩石ではなく、強烈な熱エネルギーを持っており、一つ一つが核爆弾並みの威力を地上に与えたとされています。
さらに悲劇は続きます。
上空に巻き上げられた大量の粉塵や硫黄が分厚い黒雲を生み出し、風に運ばれることで地球全体を覆ってしまったのです。
これにより地上へ届く太陽光が激減し、今度は急激に地球の気温が低下に転じました。
一説では最大で20℃以上も寒冷化し、この異常気象は30年以上も続いたと推定されています。
太陽光がなくなることで植物の光合成もストップするので生態系が崩壊し、食物連鎖のバランスも崩れて、多くの生物が食糧難に陥りました。
こうした急激な環境変化に適応できなかった恐竜たちはほぼ全ての種が絶滅。
他の動植物たちも一部を除いて、大半が絶滅に追い込まれたのです。
ではこの恐るべき脅威が現代に起きた場合、人類はどんな対策を講じることができるのでしょうか?
恐竜を絶滅させたのと同等の巨大隕石が飛来してきたとき、人類には何ができるのか?
まずもって最重要課題となるのは、隕石の飛来を「事前に予測」することです。
正直にいうと、これができなければ、人類が生き延びる確率はかぎりなくゼロに近づくでしょう。
地球に向かってくる隕石を前もって発見できる技術は、人類が生み出した最大の武器といっても過言ではありません。
恐竜たちはこれができなかったせいで、隕石衝突の被害をもろに受けることとなりました。
(もし事前に隕石の飛来を予知して、落下地点から遠く離れた場所に避難していれば、少なくともいくつかの種は生き延びられたかもしれません)
しかし人類は長年にわたって築き上げてきた科学技術により、地球に接近する隕石を前もって発見することができます。
実際に人類は宇宙に打ち上げられている探査機を使って、地球近傍の小惑星や彗星を追跡観測し、そのうち地球に衝突する可能性があるものを随時チェックしているのです。
そして隕石の正確な軌道計算ができれば、数十年単位から最大で100年先までの接近・衝突リスクを予測しておくことができます。
具体的な例を挙げますと、1997年に発見された地球近傍小惑星「1997 XF11」は2028年に地球に最接近することがわかっています。
つまり、人類には恐竜たちと違って、「巨大隕石が地球に衝突する!」とわかってから最大で数十年以上の準備期間があるわけです。
では、この間に私たちはどんな準備を整えておくべきなのでしょうか?
巨大隕石の衝突が確実なものとなったとき、人類は主に3つの手段を選ぶことができます。
単刀直入に言ってしまえば、「攻撃」か「移住」か「地下避難」です。
1つ目の攻撃はその名の通り、隕石が地球に衝突する前にこちらからアプローチを仕掛ける防衛策となります。
これは具体的に「DART計画(Double Asteroid Redirection Test=二重小惑星進路変更テスト)」と呼ばれるものです。
NASAが考案したDART計画では、隕石めがけて「キネティック・インパクター」という衝突体を高速でぶつけ、隕石の軌道を変えることを目的とします。
これが成功すれば、地球に隕石が当たることを防げるので最良の結果を生むことになるでしょう。
しかし現時点の技術力では、ほんの小さな小惑星の軌道を変えられるに過ぎず、直径10キロ級の巨大隕石には全く効果がないと考えられています。
もし衝突体をぶつけたとしても、それはボクサーがパンチでエベレストを崩そうとするようなものです。
おそらく、DART計画も今以上にパワーアップさせない限り、巨大隕石には太刀打ちできません。
そこで2つ目の手段として「移住」が選択肢に挙げられます。
これは「地球に隕石が衝突してしまうのは避けられないから、地球から脱出してしまおう」という作戦です。
人類は有人飛行をすでに達成しているので、あとは移住先が問題となります。
第一候補としては地球から最も近く、それでいて着陸経験もある「月面」が選ばれるでしょう。
現在進行中の「アルテミス計画」では有人での月面着陸を行い、月にベースキャンプを建設する予定もあります。
もし巨大隕石が衝突するとわかっているなら、人類も急ピッチで月面に多くの人を収容できる設備の建設を進めるでしょう。
また第二候補としては「火星」が挙げられます。
これはイーロン・マスク氏がCEOを務めるSpaceXが提唱するビジョンに基づいており、彼らは最終的に100万人が居住できる都市の建設を考えています。
しかし移住についても問題点は山積みです。
まず、人や物資を宇宙に飛ばすには莫大な労力とコストがかかります。
たとえ月面や火星に居住基地が建設できたとしても、そこに移住できる人は全人類の数からするとほんの一握りに過ぎないでしょう。
SF作品でもよく描かれるように、移住の権利はおそらく国の重要人物や富裕層が優先され、社会的地位の不平等が発生するはずです。
では、地球に残らなければならない多くの人々はどうすればよいのでしょうか?
そこで最も現実味のある手段が「地下避難」です。
ここでは巨大隕石の衝突に耐えられる地下シェルターを大量に建設し、そこに人々を避難させることを目的とします。
地下シェルターは隕石の落下地点から遠く離れた場所が選ばれるはずです。
さらに衝突後は地上の灼熱地獄と、それに続く寒冷化が数十年続くため、人々が長く居住できる環境づくりも必要となります。
食料自給や浄水設備、持続的な発電方法や医療施設などを充実させなければなりません。
また一部では地中ではなく、海底にシェルターを建設するアイデアも検討されています。
これは海中の方が地中よりも隕石衝突の影響を受けにくいと考えられているからです。
加えて、海底シェルターに推進システムを搭載すれば、万が一の場合に備えて、海中をそのまま移動して避難できるでしょう。
シェルターの建設も容易なことではありませんが、こうした技術革新は人類が最も得意とするところです。
多くの人々を確実に救う方法としては今のところ、このシェルターへの避難が最有力と考えられています。
人類の技術力は恐竜時代から遥かに進歩しているものの、巨大隕石の衝突を生き延びる闘いはかなり厳しいものになることは確かです。
しかし隕石の飛来を何十年も先から予測して、ここまでの準備を完璧に整え、人類が一丸となって協力すれば、この最大の危機も乗り越えられるかもしれません。
ちなみにこれと正反対のシナリオとして、人類が絶滅してしまった後の世界を知りたい方はこちらをご参照ください。
参考文献
Could Humans Survive The Asteroid Impact That Wiped Out The Dinosaurs?
https://www.scienceabc.com/nature/could-humans-survive-the-asteroid-impact-that-wiped-out-the-dinosaurs.html
Topic: Asteroid Impact Shelters Using Deep Sea Stations
https://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=43517.0
Musk plans 1,000-ship fleets to colonize Mars
https://newatlas.com/space/musk-mars-colony-plan-update/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部