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カッコウは自分では子供を育てず、托卵という方法で別種の鳥の巣に卵を生み自分の子供として育ててもらうという変わった子育て戦略を取ります。
これは有名な話ですが、これは常に上手くいくわけではなく、托卵先の親鳥にバレてカッコウの雛が捨てられてしまうこともあります。
そのため、カッコウの雛たちはまず托卵先の親鳥を上手く騙せなければ生き残ることができません。
オーストラリア国立大学(ANU)は新たな研究で、この生存競争のために、カッコウは雛のとき托卵先の雛に見た目が似るよう進化していることを発見しました。
托卵先の雛に似ていなければ生き残れない、カッコウの厳しい淘汰の世界がここから見て取れます。
研究内容の詳細は2024年5月30日に『Science』にて「宿主との共進化が托卵カッコウの種分化を支える(Coevolution with hosts underpins speciation in brood-parasitic cuckoos)」とのタイトルで公開されました。
目次
家族や友達と一緒にいるときにカッコウの鳴き声に和んでいたら、この鳥の「托卵」という習性を教えられて驚いたという人は多かもしれません。
カッコウには別の鳥の巣に卵を産み落とし、代わりに育ててもらう托卵という習性があります。
そうすることで、自分が巣を作る負担や子育ての負担を宿主に押し付けることができるのです。
さらに、この習性のために生まれたばかりのカッコウの雛は、エサを独占するために巣に産み落とされた宿主の本来の子供(卵や雛)を本能的に背中に乗せて「巣から捨てる習性」があり、そのためのくぼみも背中に備わっています。
これについては、何も知らない生まれたばかりの雛に悪魔のような習性が遺伝子によって刻まれている、という説明でテレビ番組や書籍でよく話題にされているため、知っている人は多いでしょう。
托卵される宿主にとっては、自分の子供を捨てられただけでなく、その犯人を育て、さらなる加害者の増殖に手を貸す形になります。
子供の頃にカッコウの托卵戦略を知った人の中には、カッコウが嫌いな鳥になった人もいるでしょう。
ですが近年の研究により、利用されるだけと思われていた宿主たちが、カッコウに反撃を行っていることがわかってきました。
上の動画では、托卵された親鳥が自分の巣の中にいる「カッコウの雛をクチバシて摘まんで巣の外に運び出す」様子を映されています。
宿主たちは盲目的に、巣の中にいる「存在」にエサを運び続ける愚か者なわけではありません。自分の雛とカッコウの雛を見分けられるように鑑定力を進化させ、托卵戦略に対抗していたのです。
そして巣の中で自分の雛と違う外見をした雛を発見すると「排除」するようになりました。
研究者たちは「カッコウの雛は宿主にとって非常に負担になるので、宿主はカッコウの雛を認識して巣から追い出す能力を発達させた」と述べています。
ではこの地域のカッコウたちはもう托卵をできなくなってしまうのでしょうか?
新たに行われた研究では、宿主の反撃に対して、カッコウも進化を起こしており擬態能力を身に着けている様子が明らかになりました。
この調査では、主にオーストラリアに生息するブロンズカッコウ属に着目しました。
ブロンズカッコウ属の下にはさまざまな種が存在しており、成鳥の羽の色や鳴き声に微妙な差があり、区別することができます。
このブロンズカッコウ属は種によって、托卵に選ぶ鳥が異なっているのですが、研究者たちが調べたところ、これらのカッコウの雛は宿主の雛に非常によく似た姿になっていることがわかったのです。
下の画像は、托卵先の雛の姿(右)とカッコウの雛の姿(左)を比較したものです。これを見るとカッコウの雛の擬態能力のすごさが理解できます。
つまりブロンズカッコウたちは托卵の成功率を上げるために、専門とする宿主の雛に似た雛を産むように、擬態能力を進化させていたのです。
そしてブロンズカッコウ属の成鳥にみられる微妙な羽の色の違いは、ターゲットとなる宿主の雛に似せたことが原因である可能性が示されました。
昔のテレビ番組で紹介されていたカッコウの雛は、体の大きさや見た目が托卵先の雛とまるで異なるのに、親鳥が気づかずに育てているという点がネタにされていたりしました。
この結果は、托卵戦略を成功させるために宿主の雛に似せるという方法が、カッコウの進化を加速させたことを示しています。
またカッコウたちは羽の色などを目安に、自分と似た異性とペアになることで、自分たちの雛の擬態能力を維持することが可能になります。
研究者たちも「宿主の雛に似ている雛ほど発見から逃れることができたため、カッコウの雛は多くの世代をかけて偽装能力を磨いていった」と述べています。
では世界中のカッコウは時間が経つほど、より多様になっていくのでしょうか?
これまでの研究により、カッコウ類には宿主の雛を全滅させてしまう害が高いものと、宿主の雛を捨てずに一緒にまぎれて育つものがいることが知られています。
新たな研究ではカッコウ類全体に対する大規模なDNA分析が行われており、カッコウの雛がもたらす害と、カッコウの進化の速度が調べられました。
すると、宿主の雛を捨てて全滅させてしまうようなカッコウ系統ほど、種の進化速度が速いことが判明しました。
自分の雛を捨ててしまうカッコウと、自分の雛にまぎれて一緒に育つカッコウでは宿主が被る損害に大きな違いがあります。
前者の害が大きいカッコウに対応できない場合、宿主は絶滅してしまう可能性もあります。
研究者たちは、害が大きいカッコウのターゲットにされた宿主には鑑定力を高めるような進化の圧力が働いていると述べています。
そして害が大きいカッコウたちは、その鑑定力を突破できるように、よりターゲットに特化しより細かな進化を遂げていたのです。
宿主の雛を全滅させてエサを独占する戦略は非常に強力な方法です。
しかし強力な方法を取る種ほど相手の反撃を誘発してしまい、穏やかな方法(まぎれて一緒に育つ)を取る種は見逃されるというのは、ある意味で皮肉と言えます。
今回の発見は、托卵を巡る種間の競争が進化を促し、種の多様性を増加させていることを示す貴重な例となるでしょう。
もし今度「托卵」や「カッコウ叩き」の話題になったら、トリビアとして宿主の反撃について切り出してみるのもいいかもしれん。
参考文献
Cuckoos evolve to look like their hosts –and form new species in the process
https://www.eurekalert.org/news-releases/1046563
元論文
Coevolution with hosts underpins speciation in brood-parasitic cuckoos
https://doi.org/10.1126/science.adj3210
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。