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性的なコンテンツは、表向きには子供の目から隠されていますが、実際のところ興味を持てば誰でも触れられる場所に存在しています。
3、40代以降の人たちならば、深夜番組やコンビニの本棚などにアダルトコンテンツは溢れていましたし、昨今はインターネット普及に伴い、10代の早いうちから成人指定のコンテンツに触れる機会はたくさんあります。
ほとんどの人が、若い頃、大人にダメと言われつつも何らかのアダルトコンテンツに触れた経験があるでしょう。
そのため、社会的には忌避されているものの、人生の早い段階でポルノに触れても特に問題はないと考える人も多いかもしれません。
実際研究者たちも「若い頃からポルノに触れることが将来的にどんな影響をもたらすか」については、まだ明確な答えを持っていません。
そこで今回の研究チームは、人生の早い時期にポルノに触れることが、成人後の性行動や性的嗜好、および日常の生活満足度にどのような影響を与えるか調査することにしました。
調査はアメリカ在住の一般人1055名(男性39%・女性60%、年齢18〜72歳)を対象に収集した2015年のデータを使用しています。
参加者はアンケート形式の質問票を用いて、性的コンテンツに初めて接した年齢、過去12カ月間におけるポルノの使用頻度について回答しました。
また性交渉の相手がこれまでに何人いたか、虐待的および強制的な内容の過激なポルノをどれくらい好んで見るか、それから自身の日常的な生活満足度についても評価してもらいました。
そしてチームは「最初にポルノに接した年齢」ごとに参加者をグループ分けし、それぞれの性行動や性的嗜好、日常の生活満足度を比較分析しました。
その結果、ある興味深い影響が確認されました。人生の早期にポルノへ接触していた人は、成人後の生活満足度が低くなっていたのです。
今回の研究から示されたのは、16歳以前にポルノに触れていた参加者は、それ以降の年齢でポルノに触れた人やポルノに触れたことのない人に比べて、日常の生活満足度が有意に低くなっているという相関性です。
また、早期のポルノ接触は、成人後のポルノの使用頻度の高さに関連しており、虐待的または強制的な内容の過激なポルノをより多く受け入れやすくなることも示されました。
これは早い時期からポルノに触れているせいで、普通の内容に慣れたり飽きてしまい、より過激な性的コンテンツを求めるようになっている傾向を示唆するものです。
昨今はポルノ依存症という問題も、よく耳にする話題です。
ポルノ依存症になると、日常生活の多くの時間をポルノの検索や視聴に消費してしまったり、男性の場合はアダルトコンテツでしか興奮できなくなり、勃起不全を起こすなどの問題が指摘されています。
今回の結果がポルノ依存症に繋がると示されているわけではないので、この点には注意が必要ですが、過激なポルノを求める傾向が強まると、結果的に生活全体の満足度低下に繋がる可能性は十分にありそうです。
ただ、もう1つの重要な知見として、早期のポルノ接触と成人後の性的パートナーの数に関連性があることも示されています。
10代のうちからポルノを見始めた参加者は成人期に性交渉する人数が多くなっていたというのです。
これをポジティブな要因と見るか、ネガティブな要因と見るかは意見の割れる点です。
成人後に上手くパートナーを見つけられない人にとってはポジティブな情報に捉えられるかもしれませんが、性的パートナーが多いというのは、一般的に見て感心できることではないでしょう。
この点に関しても、早期のポルノ視聴が性的価値観に混乱を引き起こしている可能性が懸念されます。
以上の結果から、早期のポルノ接触は、成人への成長段階において、個人の価値観や、人間関係の形成などに対しても長期の影響を与える問題だと考えられます。
そしてこれが成人後の「生活満足度の低下」を含むネガティブな影響を長期にわたって個人に及ぼす可能性も示されました。
ただこの種類の研究は、まだあまり深くは進んでおらず、今回の研究もあくまでアンケートを中心に相関性を示しただけのものです。
また研究者は、この結果を解釈する上で考慮すべき課題があると話します。
最も大きな問題点は、今回のデータが2015年に収集されたものであり、参加者はその時点から自分の記憶を遡ってアンケートに回答していることです。
参加者の平均年齢が32歳であることを踏まえると、彼らが最初にポルノに接触した年齢は2000年代の初めや、さらにもっと前の年代となるはずです。
そのため研究結果は、現代の子どもたちを取り巻く環境とは一致していないと考えられます。
性的コンテンツの消費状況は2015年以降に大きく様変わりしており、特にスマホやパソコンの普及に伴い、現在の若者たちはさらに早い時期から過激な内容を含む多くのポルノに触れる機会が多くなっています。
そうなると、今日の10代の若者たちが成人した後の影響は、ここで示された結果より深刻なものとなる可能性もあります。
そのため研究者たちは「ポルノの消費状況が変化している今こそ、若者が質の高い性教育を受け、早期にポルノにさらされることの危険性や有害性について理解することが不可欠でしょう」と話しています。
とはいえ、どのような表現からポルノ扱いするべきか、いつ頃から触れるのが適切かを判断するのは難しい問題です。
極端なポルノ規制を行えば、逆に性に消極的すぎる大人になってしまったり、性的な知識の不足からトラブルに見舞われるリスクも出てくるでしょう。
しかしいずれにせよ「あまり若いうちからエロいものを見過ぎない方がいい」のは確かなようです。
参考文献
Exposure to pornography before age 16 linked to reduced life satisfaction in adulthood
https://www.psypost.org/exposure-to-pornography-before-age-16-linked-to-reduced-life-satisfaction-in-adulthood/
元論文
The Impact of Timing of Pornography Exposure on Adulthood Outcomes of Life Satisfaction, Sexual Attitudes, and Sexual Behavior
https://doi.org/10.1080/26929953.2024.2322745
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。