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オスゴリラの生殖能力は類人猿だけでなく、あらゆる哺乳類の中でも最低レベルといわれています。
そんな状態でどうして種が絶滅することなく、繁殖できているのでしょうか?
研究者によると、その答えはゴリラに特有の「一夫多妻制のシステム」にあるといいます。
自然界では基本的に「ライバルとの争いを制してメスと交尾をするか」あるいは「精子の機能の高さによってライバルの精子を上回るか」で、自らの子孫を残すことができます。
しかしゴリラの群れは「アルファオス」という強いリーダーがメスとの交尾権を完全に独占しており、他のライバルと争うことがありません。
それゆえに精子の運動機能が低くても問題ないのです。
こうした競争の無さがゴリラの性器の小ささや生殖能力の低さにつながっているのでしょう。
このような生殖に不利な形質は普通、進化の過程で淘汰されますが、ゴリラでは特にデメリットとなっていないので、そのまま保持されているものと考えられています。
この背景の中で、研究チームは「ゴリラの生殖能力の低さに関連する遺伝子変異が、ヒトの男性の不妊の原因にもなっているのではないか」と仮説を立てました。
そもそもヒトとゴリラは共通の祖先を持っており、DNAの98%以上を共有しているので、これは十分にあり得る話です。
不妊症は世界中の男女の約5〜7%に見られますが、その原因となる遺伝的なメカニズムは明らかにされていません。
そこでチームはこの仮説を検証することにしました。
まず、261種の哺乳類における1万3000以上の遺伝子データを分析し、生殖能力の低さに関連する遺伝子変異を探し出します。
すると、これらの遺伝子のうち578個がゴリラに存在することがわかりました。
これまあくまでも一部ですが、この578個の遺伝子がオスゴリラの小さな性器や精子の運動機能の低さに関与していると考えられます。
そして次に、不妊症の男性2100名(精子の生産数が少なかったり、精子が生産できない男性を含む)から得られた遺伝子データを調べて、ゴリラと比較してみました。
その結果、ゴリラの生殖能力の低さに関連する遺伝子のうち、実に109個が不妊症の男性の遺伝子にも共有されていたのです。
これは生殖能力の健全な男性の遺伝子データには見られなかったため、これらの遺伝子変異が男性の不妊の一因になっている可能性が示されました。
もちろん、男性の不妊症の原因となる遺伝子変異はこれがすべてではなく、他に特定されていないものが数多く存在すると研究者らは指摘しています。
しかし、これまで知られていなかった男性の不妊症の遺伝的メカニズムの一端が明らかになったのは貴重な成果です。
参考文献
Study: Same genes that made gorilla penises small may make men infertile
https://www.buffalo.edu/news/releases/2024/05/same-genes-that-made-gorilla-penises-small-may-make-men-infertile.html
The same genetic mutations behind gorillas’small penises may hinder fertility in men
https://www.livescience.com/health/genetics/the-same-genetic-mutations-behind-gorillas-small-penises-may-hinder-fertility-in-men
元論文
Pervasive relaxed selection on spermatogenesis genes coincident with the evolution of polygyny in gorillas
https://doi.org/10.7554/eLife.94563.1
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部