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チームは今回の研究の動機として、脳内の異なる認知システムがどのように相互作用しているのかを理解したいと考えました。
そこで焦点を当てられたのが「統計的学習」と「実行機能」の2つです。
統計的学習は、個人が物事のパターンや規則性を見出し、それをもとに適切な行動を選び取る認知スキルを指します。
これは日常生活のあらゆるシーンで使われており、例えば、職場で先輩や上司の行動を観察し、どういう場合にどういう対応が適切なのかを理解したり、文章中の知らない単語に出くわすと、その前後の文脈から意味を推測したりするのに活用されています。
上に挙げたような数字を埋めるパズル問題などもそうです。
このように統計的学習は、目の前の対象からデータを収集し、そのパターンを認識するという点で機械的な思考に似ています。
一方の「実行機能」は、ある目標の計画を立てて、それを達成するために自分の行動や思考、感情をコントロールしつつ、トラブルが起きれば適切な判断や意思決定を行う認知スキルです。
こちらは現在の状況の把握や自分の置かれている状態を俯瞰で観察して、臨機応変に対応する必要があることから、機械的でなく柔軟な思考となります。
チームはこの2つのスキルが相互に協調して働くのか、それとも片方が勝れば片方が劣るというように競合して働くのかを確かめようと考えました。
チームは同様の実験を2つのグループで行いました。
1つ目はフランス在住の健康な成人186名(35歳未満)を対象に、最初の2日間で統計的学習を測定するタスクを受けてもらいます。
それが終わった翌日、今度は認知の柔軟性や自己抑制、作業記憶などを含む実行機能を評価するタスクに取り組んでもらいました。
2つ目ではハンガリー在住の大学生157名を対象とし、先と同様に統計的学習を測定した後で実行機能の評価を行っています。
そしてデータ分析の結果、どちらの実験でも統計的学習と実行機能の間には一貫した「負の関係性」が確認されたのです。
要するに、物事のパターンや規則性を見抜くのに秀でた人は、複雑な問題解決や柔軟な意思決定が苦手な傾向にありました。
逆もまた然りで、柔軟な意思決定に優れている人は物事のパターンを学習するのが得意ではありませんでした。
このことから脳内の異なる認知システムは、少なくとも「統計的学習」と「実行機能」においては、相互に協調するのではなく競合的に働いていることが示されました。
その原因としては、機械的な思考をする「統計的学習」と、柔軟で臨機応変な思考をする「実行機能」とで、それぞれ本質的に異なる認知能力が要求されるからではないかと考えられています。
例えば、文系脳と理系脳で得意な思考パターンがはっきり分かれるように、私たちは両方の認知スキルを高いレベルで同時に手にすることは難しいのかもしれません。
参考文献
Scientists uncover a surprising conflict between important cognitive abilities
https://www.psypost.org/scientists-uncover-a-surprising-conflict-between-important-cognitive-abilities/
元論文
Evidence for a competitive relationship between executive functions and statistical learning
https://doi.org/10.1038/s41539-024-00243-9
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部