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ブルーホールは現在、南太平洋のバヌアツやエジプト、日本では沖縄県の渡名喜島の近くなどで見つかっています。
しかし中でも最も有名なのは、中央アメリカ北東部のベリーズにある「グレート・ブルーホール」でしょう。
グレート・ブルーホールはベリーズ本土の沖合70キロに位置し、直径318メートル、水深124メートルの美しい円筒形をしています。
青緑色の透き通った海と周囲を取り巻くサンゴ礁の幻想的な景観が特徴で、ユネスコの世界自然遺産にも登録されています。
また現在、世界で最も深いブルーホールは南シナ海にある「ドラゴン・ホール(Dragon Hole)」で、水深は約301メートルに達します。
しかし今回の新たな調査で、この記録を遥かに上回る世界最深のブルーホールが見つかりました。
今回、ドラゴン・ホールの記録を塗り替えたのは、ユカタン半島の東側、メキシコのチェトゥマル湾にある「タアム・ジャ・ブルーホール(Taam Ja’ Blue Hole)」です。
タアム・ジャ・ブルーホールは2003年頃に地元のダイバーによって初めて発見されましたが、本格的な調査が行われるまでほとんど忘れ去られていました。
2021年に研究者によって再び注目され、そのときの調査では水深275メートルほどと推定されています。
ただ当時の調査では、海中の地形や水深を音波で調査する「エコーサウンダー」を使って穴の深さが測定されていました。
エコーサウンダーは何らかの計測器を穴に直接下ろさなくもいい反面、穴が完全に垂直でないと本当の深さが測れたとはいえません。
穴がどこかでカーブしていると、そのカーブした箇所に音波が当たって跳ね返ってくる可能性があるからです。
このような深い穴にダイバーが潜っていくことはできないため、研究チームは2023年12月に、穴の中の水温や深さなどを記録できる測定器を500メートルもの長さがあるケーブルに繋いだ状態で、穴に直接下ろす調査を実施しました。
穴の中の水温や水深のデータはケーブルを下ろしながらリアルタイムで送られてきます。
その結果、タアム・ジャ・ブルーホールの深さは少なくとも水深420メートルに達することが判明したのです。
これはドラゴン・ホールの301メートルを大きく上回る世界記録となります。
調査によると、測定機器は垂直に対して約30°傾斜した方向へ移動しており、タアム・ジャ・ブルーホールの穴がこの傾斜で曲がった方向へ広がっている可能性があるようです。
しかし研究者によると、このブルーホールは420メートルよりさらに深いところまでさらに広がっているのは間違いないという。
というのも今回の調査では、1度目は416メートル、2度目は423メートルの辺りで計測器が水中の流れにさらわれて岩壁にぶつかったせいで、その地点までの記録しか得られなかったからです。
また今回の調査では、水深400メートルを超えた辺りから海水の水温や塩分濃度が上昇していることも判明しました。
これは近くにあるカリブ海の水温や塩分濃度に近いため、タアム・ジャ・ブルーホールの底には複雑な洞窟が隠されており、それがカリブ海とつながっている可能性があるという。
このブルーホールの底は、かなり複雑な地形になっていると考えられ、そのためこの穴の水深は、今回の調査結果より更に深く続いていることは確定的だといいます。
チームは現在もタアム・ジャ・ブルーホールの真の深さを調べるための調査を続けています。
さらに研究者は穴の奥深くには、普通の海底では見られない生物多様性が広がっているかもしれないと話しました。
一般的に水深200mより深い場所は深海と定義されます。
縦に開いた穴が深海の更に深くまで続いている巨大な海の穴「タアム・ジャ・ブルーホール」の最深部には、どんな世界が広がっているのでしょうか?
参考文献
Taam Ja’Blue Hole in Mexico’s Chetumal Bay found to be deepest in the world
https://phys.org/news/2024-05-taam-ja-blue-hole-mexico.html
Deepest blue hole in the world discovered, with hidden caves and tunnels believed to be inside
https://www.livescience.com/planet-earth/geology/deepest-blue-hole-in-the-world-discovered-with-hidden-caves-and-tunnels-believed-to-be-inside
元論文
Recent records of thermohaline profiles and water depth in the Taam ja’ Blue Hole (Chetumal Bay, Mexico)
https://doi.org/10.3389/fmars.2024.1387235
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。