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こうした特徴がインカ帝国の遺跡を彷彿とさせるため、科学者たちは、アングストゥス迷路に対して「インカシティ(Inca City)」というニックネームを付けているようです。
現段階では、この火星のインカシティがどのように形成されたのか、正確には分かっていません。
ESAによると、「砂丘が時間と共に石に変化したか、火星のひび割れた層からマグマや砂などの物質が染み出ているのかもしれない」とのこと。
あるいは、古代の火星において、氷河が衰退する際に、この尾根のような高い堆積壁を残したのかもしれません。
また2002年には、火星探査機によって、インカシティが直径86kmの円形地形の一部であることも分かっており、科学者たちは、この地形が宇宙から来た隕石の衝突によって形成された可能性があるとも考えています。
とはいえ前述のとおり、形成に関しては未だはっきりと解明されておらず、それゆえインカシティは、謎の多い地域だと言えます。
そして今回、ESAはそんなインカシティに広がる「黒いシミ」の画像を公開しました。
ESAは、2024年2月27日に、火星探査機マーズ・エクスプレスが撮影した画像を公開しました。
そこにはインカシティがはっきりと写っているだけでなく、その内部に「黒いシミ」または「黒い斑点」があるのが分かります。
そしてESAによると、この黒いシミの下には、「大量のクモ」のような模様が刻まれているというのです。
上記の画像ではクモと言われてもよくわかりませんが、火星探査計画「エクソマーズ」で打ち上げられた人工衛星「トレース・ガス・オービター(TGO)」が、2020年に撮影した画像を見ると言わんとされていることがよくわかります。
これは「インカシティ」ではなく、近くの別の領域を撮影したものですが、確かに火星の表面に無数のクモがうごめいているように見えます。
これと同じような黒いクモの大群のようなシミが、インカシティにも存在しているというのです。
しかしインカシティに潜むこのシミは、いったい何でしょうか?
ESAによると、これは火星の季節変化が関係しているようです。
火星の大気組成の約95%は、二酸化炭素で構成されており、冬になると、南極では地表が凍結した二酸化炭素(つまり、ドライアイス)で覆われます。
これが春になって温まると、温度が上がりやすい地面との接触面(ドライアイスの層の奥)から、ドライアイスが昇華し始めます。
これにより内部で圧力が高まり、最終的にはドライアイスの層の割れ目から、二酸化炭素のガスが一気に噴き出します。
この時、ドライアイスの層には亀裂が走ります。
これが、火星に見られる「大量のクモ」の正体です。
そして2024年のインカシティの画像の場合、噴き出たガスの中には、「黒い塵(おそらく玄武岩質の砂)」も含まれていると考えられます。
それらがガスと一緒に噴き出て地表に落ちることで、直径45m~1kmにもなる黒い斑点やシミが作られるのです。
こうしたプロセスを考えると、インカシティでは、塵が積もった「黒いシミ」のような画像しか見ることができませんが、その塵の下には、2020年に撮影された「大量のクモ」のような模様が存在していると考えられます。
そもそも火星のインカシティ自体がまだまだ謎に包まれた地形であり、この特殊な模様のシミとと共に、多くの研究者たちの興味をますます火星に引き付けるものとなっています。
参考文献
Signs of spiders from Mars
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Mars_Express/Signs_of_spiders_from_Mars
Hundreds of black ‘spiders’spotted in mysterious ‘Inca City’on Mars in new satellite photos
https://www.livescience.com/space/mars/hundreds-of-black-spiders-spotted-in-mysterious-inca-city-on-mars-in-new-satellite-photos
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。