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サール氏の見つけた化石は魚竜のアゴの一部であり、それまでに知られていたどの魚竜のアゴよりも大きいことが分かっていましたが、他に証拠がないため、これが新種のものなのかどうかを見極めることができず、今日まで謎のまま置かれていたのです。
そこでロマックス氏は彼にも連絡し、レイノルズ親子と4人でブルーアンカーでの発掘調査を改めて行い、2022年10月までに「上角骨(じょうかくこつ)」と呼ばれるアゴの後部の骨を回収することに成功しました。
ロマックス氏は「今回の標本は以前に見つかったものより保存状態が良く、控えめに言ってとても興奮しました」と話します。
新たに見つかった骨の断片を元通りに配置すると、アゴの長さだけでも約2.3メートルあったと推定されました。
そして2016年に見つかったものと合わせて分析した結果、両者はともに2億年以上前に存在した同じ魚竜の新種であることが明らかになったのです。
驚くべきはその規格外のサイズでした。
魚竜とは、今から約2億5000万年前の三畳紀に出現した海洋爬虫類で、イルカに似た姿をしていました。
その大きさは平均2〜4メートルで、大きいものだと全長15メートルの種もいたとされています。
ところが今回見つかった新種の魚竜はレベルが違っていました。
アゴの長さだけで2メートル以上あることを踏まえると、全長は25メートル以上に達すると推定されたのです。
しかも骨を詳しく分析すると、新発見された個体は死亡時にまだ成長段階にあったことがわかりました。
つまり、もし完全に成長し切っていたら、地球上最大の生物であるシロナガスクジラ(約30m)に匹敵する大きさとなっていたかもしれません。
チームは新種の学名について、規格外のサイズと骨が見つかったセヴァーン川(River Severn)の三角江にちなんで「イクチオタイタン・セベルネンシス(Ichthyotitan severnensis)」と命名しました。
化石の年代は約2億200万年前のものであることから、本種は三畳紀の末期にあたるレーティアン(約2億850万〜2億130万年前)に生息していたと考えられています。
そのとき、陸上では恐竜が繁栄し始めていましたが、海ではまったくの敵なし状態だったでしょう。
この世紀の発見に貢献したルビーさん(現在15歳)は「新種の魚竜を発見できたのはとてもクールな体験でした。このような科学的発見に一役買えたことを誇りに思います」と話しています。
しかし一方で、この巨大魚竜が繁栄できた期間は短いものでした。
というのも三畳紀末には大規模な火山活動による地球の気候の激変で「大量絶滅」が起こったからです。
一部の魚竜はその後も生き残り、続くジュラ紀には全長10メートルの種もいたようですが、三畳紀末にいたような真の巨大種はもはや存在しなかったと見られています。
イクチオタイタン・セベルネンシスの全盛期はわずか数百万年ほどだったようですが、それでも彼らの存在は太古の海へのロマンを掻き立ててくれます。
ロマックス氏は最後にこう話しました。
「三畳紀のイギリス周辺の海に、シロナガスクジラ大の巨大な魚竜が泳いでいたことを考えると、とても驚くべきことです。
新たに見つかったアゴの骨は、いつの日か、この巨人たちの完全な頭蓋骨や骨格が見つかるかもしれないという魅力的な証拠を与えてくれています」
参考文献
Manchester paleontologist unearths what may be the largest known marine reptile
https://www.manchester.ac.uk/discover/news/manchester-paleontologist-unearths-what-may-be-the-largest-known-marine-reptile/
Ancient Bones Hint at The Most Colossal Marine Reptile The World Has Ever Seen
https://www.sciencealert.com/ancient-bones-hint-at-the-most-colossal-marine-reptile-the-world-has-ever-seen
元論文
The last giants: New evidence for giant Late Triassic (Rhaetian) ichthyosaurs from the UK
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300289
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部