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そしてこれと同じ現象が地球と月の間にも起こっているのです。
月は地球よりも重力が小さいため、時間の進み方がわずかに速くなります。具体的には1日あたり約58.7マイクロ秒ほど速くなっているという。
もちろん、これは生身の人間からすれば何の差にも感じられません。
ところが、月面探査や月周回ミッションといった宇宙活動で利用されるシステムは極めて厳密な時間で動作します。例えば、今や誰もが利用しているGPSは、先程述べた一般相対性理論による時間のズレを組み込まなければ正確に動作しません。
もしわずかでも時間のズレがあると、月面探査や月周回軌道上での位置特定やマッピングに失敗する可能性があるのです。
そこで地球で使用される「協定世界時(UTC)」とは別に、月面やその周辺での活動で指標となる「協定月時間(Coordinated Lunar Time:LTC)」が必要と考えられるのです。
特に今後は宇宙開発の急速な進展にともない、月面での活動も増えていくことが予想されます。
直近のミッションとして最も注目されるのは、人類を50年以上ぶりに月に帰還させる「アルテミス計画」でしょう。
アルテミス計画は、NASAが主導する有人での月面着陸計画です。
人類が月面に到着したのは1961年のアポロ計画が最初で、その後1972年までに6回の月面着陸に成功しました。
しかしそれ以来、人類は50年以上も月に足を踏み入れていません。
その中で発表されたのがアルテミス計画です。
アルテミスとはギリシア神話に登場する「月の女神」であり、アポロ計画の由来となった太陽神アポロンとは双子の関係にあります。
まさにアポロ計画の次なる月面着陸ミッションにはふさわしい名前です。
当初は2024年までの着陸を予定していましたが、現時点では2026年9月に月面着陸を実施すると発表されています。
同プロジェクトには、アメリカを中心に日本を含む34カ国が参加しており、2026年以降には複数回の有人月面着陸を行って、月面基地や月周回軌道上の拠点を建設する見通しです。
また、この中間地点が完成すれば、2030年代にはそこを経由する形で、さらに先の火星への有人探査を実施する計画が立てられています。
こうしたミッションの中で「月の標準時」が大いに役立つと考えられているのです。
NASA長官のビル・ネルソン(Bill Nelson)氏は3日、「宇宙では一秒一秒が重要です。宇宙探査の未来にとっては、月やその先(=火星などの天体)において統一された標準時を確立することが不可欠なのです」と自身のXにて投稿しました。
Out there in space, every second matters. Establishing a unified celestial time standard on the Moon and beyond is essential for the future of global space exploration.
Under @POTUS‘ leadership, America is setting that standard in collaboration with the global community.…
— Bill Nelson (@SenBillNelson) April 3, 2024
「月の標準時」は2026年末までの導入を予定していますが、一方で、現時点ではどのような形で月専用の時間を確立するかは明かされていません。
地球で使用されている協定世界時(UTC)は、世界各地に配置された原子時計をもとに作られていますが、月の標準時にもこれと同じ方法を採用する可能性があると報じられています。
「月の標準時」が導入されれば、それを主導したアメリカだけでなく、月面で活動する他の国々にとっても有益なものとなるでしょう。
参考文献
NASA Is Creating a ‘Moon Standard Time’
https://www.sciencealert.com/nasa-is-creating-a-moon-standard-time
Moon Standard Time? Nasa to create lunar-centric time reference system
https://www.theguardian.com/science/2024/apr/02/moon-nasa-coordinated-lunar-time
White House Office of Science and Technology Policy Releases Celestial Time Standardization Policy
https://www.whitehouse.gov/ostp/news-updates/2024/04/02/white-house-office-of-science-and-technology-policy-releases-celestial-time-standardization-policy/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。