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実際、2018年のアメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究では、環境DNAの分析により、南カリフォルニアの海域にホオジロザメの存在を確認できたと報告しています。
その海域では、過去の乱獲によりホオジロザメの数が減っていましたが、最新の分析で、いくらか復活していることが分かったというのです。
そして、これら動物たちと同じように、人間もまた行く先々で環境DNAを残していきます。
人間の環境DNAは、私たちが呼吸したり話したりする際に吐き出された飛沫の中に含まれていたり、皮膚から剥がれ落ちる極小片として、しばらく空気中を漂うことがあるのです。
いくつかの研究によると、落屑(らくせつ:皮膚から角層の最外層が剥がれていく現象)により、1日に最大108個もの細胞が落ちると言われています。
また、空気中の環境DNAは、部屋で稼働しているエアコンに吸い込まれることもあります。
オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)に所属するマリア・ゴーレイ氏ら研究チームは、こうした点を考慮し、エアコンと空気中から人間の環境DNAを採取できるか調査することにしました。
研究チームは、4つのオフィスと4つの住宅を実験場としました。
そこのエアコンをすべて掃除し、既存の環境DNAをすべて除去。その後、実験参加者を移住させ、通常の生活を送ってもらいました。
住宅は、毎日の生活を送るのに使用され、オフィスは週5日の勤務時間中に使用されました。
そして様々な期間に、採取されたサンプルを分析しました。
その結果、1つを除くすべてのサンプルから、居住者と一致する環境DNAが見つかりました。
さらに別の実験では、エアコンからではなく、空気収集装置を用いて、空気から直接的に人間の環境DNAが採取できるか調べました。
その結果、空気中からも居住者の環境DNAを採取できると判明。
ただし、空気中から環境DNAを検出できるのは、「最近まで部屋にいた人」に限るようです。
一方、エアコンを用いた検出は、「しばらく前にいた人」の環境DNAも採取できるようです。
これらの結果は、エアコンや空気中の環境DNAの分析が、部屋に存在した個人を特定するのに役立つことを示しています。
事件現場に残された犯人の証拠は、指紋だけではないのです。
犯罪が行われた後、犯人が証拠隠滅のために部屋を掃除することがあるかもしれません。
しかし、空気を完全に入れ替えたり、エアコンを掃除したりすることは難しいでしょう。
科学捜査技術の進歩によって、犯人が逃げ切ることはますます難しくなっており、今回の結果は、現代では完全犯罪がほぼ不可能であることを示唆しています。
もちろん、「短時間の滞在であれば証拠は残らないのか」「マスクの装着によって証拠が残らないようにできるのか」など様々な疑問が残ります。
これらは今後調査されていく課題となるでしょう。
一般市民として科学捜査が進歩していくのは喜ばしい限りです。しかし、コロンボや古畑任三郎と知的ゲームを繰り広げる犯人を描くことはますます難しくなるのかもしれません。
参考文献
Plucking key evidence from air
https://news.flinders.edu.au/blog/2024/04/04/plucking-key-evidence-from-air/
Cold case: DNA in airconditioners to place suspects at the scene of a crime
https://newatlas.com/science/air-conditioners-criminals-environmental-dna/
元論文
Up in the air: Presence and collection of DNA from air and air conditioner units
https://doi.org/10.1002/elps.202300227
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。