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暗黒物質は通常の物質、光、電力、磁力などあらゆるものと相互作用せず、ただ1つ重力のみに関連した「見えない物質」と定義されています。
たとえば通常の水分子がある位置座標に暗黒物質を設置しても、互いに相互作用しないため押し合うことなく同居が可能です。
また光や電磁力と相互作用せず重力のみに従うことから、直接的に測定するには重力の検知装置が必要となります。
このような「見えない物質」の存在が囁かれるようになった理由の1つが、銀河内の星々の回転速度の測定結果にありました。
銀河内部の星々は、太陽系の惑星と同じように、中心部分が早く外縁部が遅く周回しています。
しかし星々の周回速度を詳しく測定したところ、銀河外縁の星々の周回速度が予想より遥かに早いことが判明しました。
また重力レンズと言われる、天体による空間の屈曲を利用したレンズが予想より強力である理由としても、暗黒物質の存在が追加されています。
このように暗黒物質は、理論と観測結果の隙間を埋めるための存在として用いられるようになりました。
観測できない暗黒物質の存在を付け加えることで、既存の理論が実にスムーズに機能したのです。
ある意味で暗黒物質は、既存の宇宙論を「観測結果の暴力」から守るための保護剤として機能してきたと言えるでしょう。
あとは暗黒物質の存在を確認できれば、全ては丸く収まります。
しかし暗黒物質を検出しようとする全ての試みは失敗し続けていました。
人類が考え得る全ての方法で試しても、なんら痕跡はつかめなかったのです。
さらに既存の宇宙論の試練は続きました。
近年のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測により、既存の宇宙論では、存在してはならない構造・形状をした銀河が発見されました。
既存の宇宙論でにおいては、観測された銀河がその構造や形状になるまでには数十億年かかるとされていたからです。
10億歳の宇宙に数十億歳の銀河がみつかったのですから、言い逃れはさらに困難なものになるでしょう。
(※同様に既存の宇宙論では「存在してはならない銀河」は次々と発見されてています。)
そこで近年では、既存の宇宙論の保護剤としての暗黒物質に見切りをつけ、暗黒物質に頼らず機能する新しい宇宙論を模索する試みが徐々に増えてきました。
たとえばたとえば2024年1月8日に発表された論文では、非常に離れた位置を巡る連星を観測することで、既存の宇宙論の土台となるニュートン力学やアインシュタインの重力理論が間違っている可能性が示されました。
代わりにこの研究では新たな「修正ニュートン力学(MOND)」が提案されており、MONDが暗黒物質の助けなしで連星の動きを予測できることが示されました。
(※このMONDでは長距離間で働く微小な重力が、理論値より高いことが示されています)
一方、オタワ大学の研究者が新たに提示した理論では、もっと別な角度から切り込みを行いました。
既存の理論では粒子の相互作用にかかわる重力などの、自然な力の強度「結合定数」は時間が経過しても変化しないと考えられています。
また光の強度も時間を経ても変わらず、どんなに長い距離を走破してもエネルギーは失われないと考えられています。
しかし新たな理論では、この自然な力の強度「結合定数」が時間経過とともに弱まったり(CCC理論)、長距離を移動した光は疲れ切ってエネルギーを失う(TL理論)とする概念が含まれています(CCC+TL理論)。
どちらの理論も単独で用いる場合には問題がありますが、新たな理論「CCC+TL理論」ではその名の通り、2つを組み合わせた運用が行われています。
理論が完成すると研究者たちは、まず銀河の中心部と外縁部の回転速度が理論値と一致するかを調べました。
既存の宇宙論では暗黒物質に依存しなければ正しい回転速度を導けません。
しかし新たな「CCC+TL」理論を当てはめたところ、暗黒物質がない状態でも中心部と外縁部の観測された回転速度に一致することが判明します。
次に研究者たちは宇宙マイクロ背景放射にみられる特殊な振動パターン(バリオン音響振動:BAO)の観測結果を使って、検証を行いました。
宇宙マイクロ背景放射にみられる濃淡のうち濃い部分はその後の銀河系性の核となり、宇宙全体の可視物質の広がりを予測することが可能です。
すると、新たな「CCC+TL理論」は、背景放射の特定の特徴と一致することが判明します。
これらの結果は新たな「CCC+TL理論」は銀河を巡る星々の回転速度や宇宙マイクロ背景放射に至るまで幅広い領域で、観測値と一致していることを示しています。
これまで暗黒物質の存在を否定する多くの理論研究が行われてきましたが、実際に暗黒物質を排除した理論と実際の観測結果が一致した例は、今回がはじめてとなります。
また新たな「CCC+TL理論」が成り立つ場合、宇宙の年齢は267億歳となるのですが、この点も「存在してはならない銀河」の年齢問題を解決します。
既存の宇宙の年齢を137億年とする理論では「宇宙が10億歳のときに(127億年前に)数十億歳の銀河が存在する」という矛盾が生じてしまいますが、宇宙の年齢が267億歳ならば「127億年前の宇宙に数十億歳の銀河が存在」していても問題はありません。
またCCC+TL理論が正しければ、宇宙の加速度的膨張のメカニズムも変わってきます。
既存の宇宙論では宇宙の加速度的な膨張は暗黒エネルギーのせいだと言われています。
新たな理論でも宇宙の加速度的な膨張は否定していませんが、その原因は宇宙が膨張するのに連動して「自然の力」が弱まるためであると述べています。
ここで言う自然の力とは最も基本的な4つの力「重力・強い力・弱い力・電磁気力」などが相当します。
新たな理論は、暗黒物質なしに観測結果と合致する理論として、かなり有力なものと言えるでしょう。
ただ宇宙物理学者の全員が新理論に同意しているわけではありません。
既存の暗黒物質に頼った宇宙論は「存在してはならない銀河」が観測されたり、遠く離れた連星の動きを予測できないなど幾つかの問題点があるのは確かですが、それ以外はおおむね上手くいっています。
そのため宇宙の年齢について公の場で発言する場合には、今のところはまだ「137億歳」と言っておいた方がいいでしょう。
参考文献
Physicist Claims Universe Has No Dark Matter And Is 27 Billion Years Old
https://www.sciencealert.com/physicist-claims-universe-has-no-dark-matter-and-is-27-billion-years-old
元論文
Testing CCC+TL Cosmology with Observed Baryon Acoustic Oscillation Features
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad1bc6
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部