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そんな中、クレア氏がオジロワシの撮影をしていると、今度は水面に1頭のハイイロアザラシ(学名:Halichoerus grypus)がぬっと姿を現しました。
ハイイロアザラシは元々、ワイト島の周辺海域に生息しており、全長が2メートルを超えることもあります。
そして驚きの瞬間はまもなく訪れました。
なんとオジロワシが水面に接近してきたところを見計らって、ハイイロアザラシが口から水流を発射したのです。
これは今まで生物学的に記録されたことのない出来事でした。
クレア氏は見事にその瞬間の撮影に成功しています。
最初のうち、ハイイロアザラシはワシに向かって吠え声を発していただけでしたが、クレア氏によると、オジロワシが水面への接近をやめなかったので急に水鉄砲を放つという実力行使に出たといいます。
クレア氏の娘で、英ポーツマス大学(University of Portsmouth)の古生物学者であるミーガン・ジェイコブス(Megan Jacobs)氏が、このアザラシの行動について考察しました。
「ワイト島では近頃、ハイイロアザラシとオジロワシの目撃が頻繁に報告されていますが、両者の直接的な相互作用はこれまで確認されていませんでした。
オジロワシは魚を捕食することが知られているので、アザラシの行動はおそらく、資源を奪い合う競争相手を排除するための戦略だったと考えられます」
実際、ワイト島のハイイロアザラシはイカナゴやタラ、ニシン、タイセイヨウサケを主食としていますが、オジロワシの方も同じ魚を上空から狙っているのです。
ワイト島周辺においてハイイロアザラシは頂点捕食者であり、2019年以前は何不自由なく魚を独り占めできていたのでしょう。
ところがオジロワシの再導入により同じ資源を奪い合うライバルが出現したことで、焦りを感じたのかもしれません。
そのため、ハイイロアザラシの水鉄砲は「こっち来んな!」というワシへの警告の意味があると捉えられます。
またミーガン氏は、他の動物に対する攻撃手段としてアザラシが「水鉄砲」を用いたこと自体が初の事例だといいます。
「スピッティング(spitting=何らかの液体を吐き出す行為)は脊椎動物の中でも珍しい行動活動であり、主にヒトやラクダ、ラマ、アルパカの他、毒を吐くヘビや水鉄砲を放つアーチャーフィッシュなどに見られる行動です。
アザラシが同じ行動を取るという証拠写真が手に入ったことにとても興奮しています」
今回確認されたハイイロアザラシの実力行使を機に、ワイト島での両者の争いは激化していくかもしれません。
参考文献
First-of-Their-Kind Pics Capture The Moment a Seal Spat at a Swooping Eagle
https://www.sciencealert.com/first-of-their-kind-pics-capture-the-moment-a-seal-spat-at-a-swooping-eagle
Gray seal spits water stream at eagle in first recorded interaction
https://www.upi.com/Odd_News/2024/03/07/Isle-of-Wight-University-of-Portsmouth-gray-seal-white-tailed-eagle/5841709834557/
Caught on camera: grey seal spits at sea eagle in never seen before encounter
https://www.port.ac.uk/news-events-and-blogs/news/caught-on-camera-grey-seal-spits-at-sea-eagle-in-never-seen-before-encounter
元論文
Grey seal interaction with a White-Tailed Eagle: spitting as a means of defence?
https://www.researchgate.net/publication/378680280_Grey_seal_interaction_with_a_White-Tailed_Eagle_spitting_as_a_means_of_defence
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。