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ダイエットしていたのにファストフードを食べる、お酒を飲む、ジムに通うのをやめるなど。
自分自身を律することは難しく、時に望ましい行動を取ることができないこともあります。
しかし私たちは我慢するのが苦手なのにも関わらず、相手が我慢できなかった事実を知ると「その人は自制心がない誠実性の低い人だ」と安直に判断を下してしまいがちです。
誠実性は、人間関係、さらには親密な関係を結ぶうえで重要な要素であることは間違いありません。
自己制御能力が低いと、発言と行動の一貫性がなく、信用したのにもかかわらず裏切られる可能性があり、不利益を被ってしまいます。
しかし失敗をしない人はいません。
相手の理解を得るためには、失敗の原因を話す必要性が出てきます。
この失敗あるいは成功の原因がどの要因と結び付ける行為を、心理学では「原因帰属」と呼びます。
読者のみなさんも最近経験した成功や失敗を思い出してみてください。
おそらくその結果にはさまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられますが、ひとつ原因を挙げるとしたらなんでしょうか。
自分の能力の高さ、費やした時間かもしれませんし、自分が制御できない国際情勢や突然発生した地震の影響かもしれません。
これまでの心理学の研究では、成功と失敗の原因をどの要因と結びつけるのかで、その後の感情や動機がどのように変わるのかに焦点が当てられてきました。
成功の原因を「自分の能力」などの自分自身に帰属すれば、のちの学習意欲が向上し、失敗の原因を「運」などの自分の力の及ばない領域に帰属すると、のちの成功への期待を高めることができます。
良い結果は自分のおかげ、悪い結果は自分以外のせいにすることで、自尊心を保ち、その後も頑張ろうと思うのです。
しかし相手に対し自分の成功と失敗を説明する際に、どのような原因に帰属すれば印象が良くなるかという原因帰属の場所による相手からの印象の変化は未検討でした。
そこで英ロンドン大学のジャニナ・スタインメッツ(Janina Steinmetz)氏は、約1,200名を対象とした6つの実験で、失敗の言い訳の仕方で周囲からの印象が変化するのかを調べています。
ある実験ではオンラインで募集した参加者200名を3つのグループに分け、それぞれ割り当てられた文章を読んでもらうよう指示しました。
グループ1:架空の人物が新年の目標が達成できなかったのはお金のせいだと語る文章を読む
グループ2:架空の人物が新年の目標が達成できなかったのは時間のせいだと語る文章を読む
グループ3:架空の人物が新年の目標が達成できなかったことのみが書かれた文章(理由なし)を読む
そして参加者は架空の人物の自己制御の高さを評価しました。
実験の結果、時間を失敗の原因にした人は、お金を失敗の原因にした人よりも、自己制御能力が低いと評価されたのです。
失敗の原因を時間のせいにした人は、失敗の原因を説明していない場合と同程度の自己制御能力を持っていると評価されました。
どうやら私たちは、時間よりもお金のほうがコントロールが効きにくく、お金が失敗の原因であると、仕方がないと思う傾向があるようです。
研究チームは「人々は何か成し遂げることができなかったときに、時間がないことを言い訳にしがちであることを考えると、この結果は驚きだ。しかし他人が失敗の原因が時間にあるというと、もっと時間を有効活用できただろうと考える。
どうやら時間は十分な動機があれば作ることができると考えるらしい。コントロールすることが難しいお金の不足を失敗の原因に挙げると、時間がなかったという場合と比較して、自制心が優れている印象を与えることができるのだ」と述べています。
就職の面接などの場面では、人生で経験した失敗について話すことを求められることがよくあります。
もちろん誰しもそのような経験はありますが、失敗の原因を制御不能な要因に基づくことを強調することで、ポジティブなイメージを相手(ここでは面接官)に与えることができるかもしれません。
参考文献
Prone to abandoning New Year’s resolutions? Research suggests blaming money worries rather than being time-poor
https://www.sciencedaily.com/releases/2023/12/231215140245.htm
Prone to abandoning New Year’s resolutions? Bayes’ research suggests blaming money worries rather than being time-poor
https://www.eurekalert.org/news-releases/1011331
元論文
Too little money or time? Using justifications to maintain a positive image after self-control failure
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ejsp.3010
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。