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金星は地球の1つ内側の軌道を公転していて太陽からの距離も地球に近く、直径は地球の0.95倍、質量は地球の0.8倍と、大きさもかなり地球に近い惑星です。
太陽からの距離や大きさなど、その特性が地球と類似しているため地球の双子星といわれています。しかし、実際には地球とは大きく異なる環境の惑星です。
たとえば、金星表面の温度は約460℃で、太陽により近い水星の表面温度(昼側約430℃)より高くなっています。金星がこれほどまでに高温なのは二酸化炭素による温室効果が働いているためと考えられています。
また、地球の大気は窒素と酸素が主成分ですが、金星の大気は二酸化炭素が96パーセントを占めています。この分厚い大気のため、金星表面での気圧は約90気圧(1気圧は1013hPa)にも達します。これは地球表面での気圧の90倍で、水深900メートルの海中と同じ圧力です。
金星が地球に比べて極端に大気圧が高いのはどうしてでしょうか?
それは、地球には海があるのに対して、金星には水がほとんどないからです。地球の初期の大気も現在の金星と同じぐらいの大量の二酸化炭素をふくんでいたと考えられています。海がある地球では、海水に二酸化炭素が溶けて石灰岩として大気から除去されました。
しかし、金星では太陽に近いため温室効果の影響が大きく水がほとんど蒸発し、大量の二酸化炭素を含んだ大気が残りました。
太陽と惑星の距離が大気の組成に大きく影響しているため、金星が高温高圧の環境であることは太陽からの距離が原因ともいえるでしょう。金星の大気の成り立ちについては後ほど詳しく説明します。
ところで、金星は自転の向きと公転の向きが逆になっています。
太陽系の天体の多くは、自転と公転が同じ方向(北から見て反時計回り)です。しかし、金星は非常に遅い速度で逆向きに自転し、1回転するのに地球時間で243日もかかります。
したがって、地球では太陽は東から昇って西に沈むのに対して、金星では太陽が西から昇って東に沈み、1日の長さは地球の243日分もあるのです
かなり金星の1日は地球の1日と異なることがわかります。なぜこのようなことになっているのでしょうか?
太陽系形成の過程で惑星の公転と自転の向きはだいたい同じになります。これは全体として同じ方向に回転する原始太陽系円盤の中で微惑星同士が衝突して惑星が形成されるからです。
原始太陽系円盤の密度が均一だとすると、外側からぶつかってくる微惑星の方が、内側からぶつかってくるものよりも多いのです。外側からの衝突は公転と同じ向きの自転を生み出す力となります。そのため、自転はおおむね公転と同じ向きになります。
ただし、原始太陽系円盤の密度にばらつきがあった場合、逆向き自転も起こり得ます。
金星の自転の向きが公転と逆向きなのは周囲のガス分布に密度のゆらぎがあったからかもしれません。
しかし、これは確率としては低いため、最初は他の惑星と同じ向きに回っていたのが何らかの外力によって逆向きになったと考えた方が自然です。
最も可能性の高いのが天体の衝突です。他の天体との衝突によって金星の自転軸が反転したと考えられます。
また、金星は太陽に近いので、太陽からの潮汐力による影響も考えられます。太陽からの潮汐力は惑星の自転を遅くする働きがあります。金星の濃密な大気が潮汐力により変形することでその効果を増幅させます。
惑星の自転速度が速い場合自転軸の向きは安定していますが、自転がゆっくりになると自転軸は不安定になります。金星の自転が遅くなったために自転軸の方向が揺らいで、結果として自転方向が反転してしまったのかもしれません。
空を見上げるとひときわ美しく輝く金星は、まさに女神ビーナスの名にふさわしい星です。
この輝きの秘密は金星の雲が太陽からの光をよく反射することにあります。この雲は太陽から受けた光の78%を反射します。金星は地球との距離が近いことも相まって、地球の夜空に輝く天体の中では、太陽と月に次いで3番目に明るい天体です。
金星の大気は非常に厚く、その成分のほとんど(96%)は二酸化炭素が占めています。厚い大気のため、地表面の気圧は92気圧、温度は460℃に及びます。
金星の雲は地球の雲とは全く異なる硫酸でできた雲です。この硫酸の雲は高度45~70kmの範囲に存在しています。雲からは硫酸の雨が降ってきますが、地表がとても熱いので途中で蒸発してしまって地上まで届きません。
現在の金星は高温高圧の世界で、硫酸の雨が降るすさまじい世界ですが、金星の大気にはかつて地球の海に匹敵するほどの水が存在したという説があります。
金星に水が存在した具体的な根拠の一つとして、大気中の水素と重水素の存在比が挙げられます。
これら水素の同位体は、原子核内の中性子の数が異ります。水素の原子核は陽子1つだけで、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成されています。
金星大気では、水素に対する重水素の割合が地球大気における割合と比べて100倍以上も大きいのです。重水素と比べて軽い水素が特に高い割合で宇宙空間へ逃げて行った結果であると考えると、つじつまが合います。
太陽が現在よりも若くて暗かった頃ならば、金星がそれほど高温ではないので、地球のような海が存在できたかもしれません。実際、太陽系が誕生して間もない頃、太陽の放射エネルギーは現在の70%程度しかなかったと考えられています。
金星表面に液体の海があったとして、それはいつ頃まで存在していたのでしょうか?
これには幾つかの説が存在しています。
まず、30億年前には蒸発してしまっていたという説があります。
海があったといっても、水の量が少なかったためすぐに蒸発してしまったということです。当時の海の平均水深は300mで、地球の平均水深が3800mであるのと比べるとかなり浅かったのです。
一方、今から7億年前という比較的最近まで存在していたという説もあります。20~30億年間という長期にわたって安定的に海が存在していたということです。
なぜ、大量にあった水が金星から失われたのでしょうか? それは、金星では暴走温室効果によって水が蒸発してしまったからです。
温室効果とは二酸化炭素や水蒸気などにより地表から放出される熱を大気中に保存する働きのことです。温室効果を持つガスのことを温室効果ガスといいます。温室効果のメカニズムは、地表から放射された赤外線が温室効果ガスを含む大気によって吸収されることで大気の温度が上がるというものです。
現在の地球では二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化が環境問題になっていますが、過去の金星では温室効果に歯止めが効かなくなった結果、大量の水が失われたのです。
過去の金星では地球と同じように多くの水を含む大気が存在しました。
金星は地球より太陽に近いため、太陽から受け取るエネルギーの量が多く、そのため地表の温度は地球より高くなります。実際、金星が受け取る太陽光は地球の約2倍です。
金星の大気には二酸化炭素とともに水蒸気が含まれていたため、その温室効果によって大気の温度が上昇しました。温度が上がるとさらに水が蒸発し温暖化がますます加速されます。
地球の場合、上空で冷やされた水蒸気は雲となり雨となって地表にもどります。
一方、金星の場合は太陽に近く大気の温度が高いため、雲(水蒸気)は液体の雨となって地上に戻らず、上層まで運ばれるのです。すると、水は太陽からの紫外線によって水素と酸素に分解されます。水素は軽いので、熱運動によって金星の重力を逃れ、宇宙空間へと飛び出していってしまいます。
残された酸素と二酸化炭素のうち、酸素は地表の岩石を酸化するのに使用され、大気中には大量の二酸化炭素だけが残りました。
このように、金星では水蒸気による温室効果が暴走し、地表の水がすべて蒸発することになったのです。そして、金星は水の雲ではなく、硫酸の雲に覆われる惑星になってしまったのです。
この硫酸の雲や雨はどのようにできたのでしょうか?これも、かつて金星に水があったとすると次のようなメカニズムが考えられます。
金星の地表は460℃という高温のため、黄鉄鉱などの硫黄を含む鉱物が二酸化炭素や水と反応して二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を大気中に放出しました。
二酸化硫黄は硫黄を燃やしたときにできる気体です。その後、上空50km~70kmまで上昇した二酸化硫黄が酸素や水と反応して硫酸の雲になったと推測されます。
金星の大気の動きも謎に満ちています。金星の大気の最大の謎は、上空に秒速100mを超える強風が吹いていることです。この風速は地表に接している大気の風速ではありません。高度45~70kmにある雲の層の風速です。
金星の自転周期は243日で秒速に換算すると秒速1.6mです。そのため金星上空では自転の60倍もの速さで大気が回転していることになり、この現象は「スーパーローテーション」と呼ばれています。
普通に考えると、惑星の固体部分の自転とかけ離れた大気の高速回転の持続は困難です。そのような高速回転が一時的に発生しても地表との摩擦によって、大気の速度は減速していき、結局は固体部分の自転と同程度になるはずだからです。
また、金星の自転は非常に遅いので、太陽に面した昼側の面と太陽と反対の夜側の面では温度差が大きいと考えられます。この状態では昼側で上昇気流が生まれて夜側に向かい、夜側で下降気流となってまた昼側に向かうという循環になると予想されます。
実際に、金星の高度100kmの「熱圏」と呼ばれる層ではこのような対流が生じていると考えられています。なぜ雲の層や下層大気でも夜昼間の対流が支配的にならないのでしょうか?
このように、金星のスーパーローテーションは力学的にも気象学的にも不思議な現象と考えられてきました。この現象を説明するための多くのメカニズムが提案されていますが、まだ完全な解明には至っていません。
この現象を説明する有力な説の1つが、「熱潮汐波メカニズム」です。大気は昼間熱せられて膨張し、夜冷却されることで収縮します。これが繰り返されることで大気中に波が発生します。この波が「熱潮汐波」です。雲の層で太陽光が吸収されて熱をもつとそこから熱潮汐波が上下方向に伝わっていきます。
熱潮汐波は太陽による加熱が原因の波なので、波の発生源は太陽方向つまり自転と逆方向に動いていきます。
その反動で自転の向きの運動量が増加するのです。上空に向かった熱潮汐波は散逸し、下方に向かった熱潮汐波は地表に吸収されます。それらを差し引いた自転方向の運動量のみが残ります。そのために雲の層は自転の速度以上のスピードで動くようになります。
これが、熱潮汐波によるスーパーローテーションの発生メカニズムだというのが現状の理解です。
地球から望遠鏡で金星を見てもその地表の様子をうかがい知ることはできません。厚い雲のベールで覆われているからです。
そのため金星の地表を観測する際にはレーダー観測が威力を発揮します。
レーダーとは、電波を用いて目標を探知し距離を測定する技術のことです。電波は可視光線に比べると格段に波長が長く、雲に反射されたり吸収されたりすることがなく透過できるため、金星の軌道上から地表の様子を見ることができるのです。
1990年代に行われたマゼラン探査機の地形走査レーダーやレーダー高度計によって、金星表面の地形がいくぶん明らかになりました。
厚い雲に阻まれて見ることができなかった女神の素顔は、多くの火山や噴き出た溶岩に覆われた灼熱の世界でした。
金星表面の地形を分類すると、平原が60%、高地が24%、山脈と火山が16%です。平原は凹凸が少なく高低差1000m以下です。
なめらかな平原はレーダーを散乱しにくいので画像には暗くうつります。レーダー画像の解析によると平原のほとんどが溶岩流で覆われていることが分かりました。これは大規模なマグマの活動があったことを示しています。
高地とは、金星の平均半径に対して数千mの高さに盛り上がった台地のことです。ただそれは地球の台地と異なり非常に巨大で、それぞれオーストラリア大陸ぐらいの大きさがあります。
山脈と火山は、地球と比べて大きさ、標高共に大型のものが多くなっています。これは金星には地球のようなプレートテクトニクスが存在しないことと関係があると考えられます。上の画像は金星のグラ山の画像です。グラ山は高さ約3000mの火山です。
地球では地核上部は多くのプレートに分かれており、このプレートが互いに動くことで大陸移動が起こります。これがプレートテクトニクスです。一方、金星の地核は動かない1つのプレートに覆われていると考えられています。
火山を形成する原因となるのは、プリュームと呼ばれるマントルの対流によるマグマの上昇流です。
プレートの動きがある地球では、プリュームに対してプレートが少しずつ動いています。そのため、プレートの動きに沿って、いくつもの小型の火山ができます。例えば太平洋プレートに乗っているハワイ火山(ハワイ諸島)は多くの小さな火山に分かれています。
それに対して、金星ではプレートの動きがなくマグマの供給は一か所に集中するので、一個の大型の火山が形成されやすいと推測されます。
金星には、上で述べた大型火山以外にも特徴的な地形が見られます。例えばパンケーキドームやコロナといった円形の火山地形が見つかっています。
パンケーキドームは、上の画像のように円形のドーム状に盛り上がった地形です。地球の楯状火山に似ていますが、その10倍から100倍の大きさがあります。高さは1km以下で、山頂部が広く平らになっているのが特徴です。粘性の高い溶岩がマントルから押し上げられてできたと考えられています。
コロナはリング状に連なった山脈で、主に平原に存在しています。コロナは他の惑星には見当たらない金星特有の地形で、半径100~1000kmの地殻の盛り上がりとそのすぐ外側にある円環状の溝によって特徴づけられます。
コロナは通常の火山と同じようにプリュームのマグマが地殻を突き抜けて噴き出したものと考えられていますが、その形成プロセスの詳細はよくわかっていません。
金星は地球のご近所の惑星ですが、実際に行ってみたらどうなるでしょうか? 金星に人は住めるでしょうか?
金星の地表面は約460℃、気圧は約90気圧、さらに大気は硫酸という地獄のような世界なので、とても人間が生存できる環境ではありません。
金星に着陸するのはとても大変です。金星の軌道は火星よりも地球に近いですが、長い間地表の調査は行われませんでした。それは金星の環境があまりにも過酷だったからです。
ソビエト連邦の金星探査計画において、ベネラ5号とベネラ6号は大気圏観測用の探査機として金星に降下しましたが、地表に到達する前に大気圧によって破壊されました。5号と6号は破壊されるまでの間、それぞれ53分と51分の間データを送信し続けました。
その後、1981年に金星に着陸したベネラ13号は、金星の地表で127分間活動をつづけました。これが金星表面での探査活動の最長記録です。このことから金星がどれだけ過酷な環境かということが分かるかと思います。
そんな金星でも、地表から高度50kmの雲の中なら住める可能性があります。そこでの気圧は地球の地表と同じちょうど1気圧。気温も30℃から50℃となっているので生命にとって快適です。
実際に、NASAは高高度金星運用コンセプト( HAVOC ) として金星への有人探査計画を発表しています。この計画では、最初にロボットを乗せた飛行船による探査の後、宇宙飛行士が飛行船に入り30日間試験的に生活を行ってデータを集めます。最終的には金星の上空に多数の宇宙ステーションを浮かべて本格的な移住を行うというものです。
ただし、この計画にはいくつかの課題があります。
まず、人間が生存するのに必要な酸素が金星にはほとんどありません。また、金星の雲の中では硫酸の雨が降っています。硫酸に触れると皮膚が侵されるので非常に危険です。
これらの課題については、以下の方法で対応可能です。
酸素については、酸素ボンベを用意することで解決できます。また、宇宙ステーションの中で植物を栽培することで作り出せるようになるかもしれません。硫酸雨に対しては、耐酸性の宇宙服で対抗できます。
地球から見るととても美しく輝いている金星ですが、その厚い雲の下はすさまじい世界のようです。
それでも人類は金星の謎の解明のために探査を続けるでしょう。将来的には金星の有人探査も可能になっているかもしれません。金星に人類が移住するのは高いハードルがあると思いますが、50km上空の空中都市というのはなんとも魅力的ですね。
参考文献
惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496
惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X
シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY
ライター
浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。