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近年、AI技術の進化により、AIが生成した動画や画像が増加しています。
OpenAIのChatGPTやDALL-E、GoogleのLaMDAやGemini(旧Bard)、MicrosoftのCopilot、NVIDIAのStyleGANなど。
これらの生成AIは、事前に与えられたトレーニングデータを学習した情報やパターンを基に、画像や文章、動画などの新たなコンテンツを作り出すよう設計されています。
それゆえ生成AIが生み出す作品は高品質で、人間の作品と見分けがつかないものも存在します。
それらの作品に対して私たちはどのように感じているのでしょうか。
AI生成のアートの人気が急速に高まったことを受けて、AIが生成したアートに対する人々の態度を研究することへの関心も高まっています。
近年の研究によると、どうやら私たちには、AIが生成したアートよりも人間が生み出したアートの方を良いと感じるバイアスがあるようです。
ロンドン大学のウルリッヒ・カーク氏(Ulrich Kirk)らの研究では、AI生成と人間が描いたアートに対する美的な評価を実際に比較しています。
実験では、fMRIに入った状態で参加者に、AIによって生成されたというラベルが貼られた絵と人間が描いたというラベルが貼られた絵を見て、美しさを評価してもらいました。
参加者が評価した絵は、人間の顔や背景画というわけではなく、ある概念を抽象的に表現している、オンライン上で公開される画像です。
実験の結果、人間が描いたというラベルが貼られた絵は、AI生成されたというラベルが貼られた絵よりも美しいと評価されました。
また人間が描いたというラベルが貼られた絵を見たときには、報酬系と呼ばれ、お金や食べ物などを見たときに活性化する内側眼窩前島皮質がより活性化することも分かっています。
この結果は、AI生成のアートに対する美的評価に関してネガティブなバイアスが存在することを意味しています。
つまり、人間が描いた絵とAI生成で描かれた絵では、同程度の完成度・美しさであっても、人間が描いた絵の方を高く評価してしまう傾向があるのです。
このバイアスは、描き手が明示されているから生じるのでしょうか、また抽象画以外の背景画などでも同様に生じるのでしょうか。
新たに慶應義塾大学の周儀珍氏(Yizhen Zhou)らの研究チームは、AI生成のアートに対するネガティブなバイアスに関するより詳細な検討を行いました。
実験では、参加者に画像を見せ、美しさ・具体性、作品がどれだけ好きかの評価と見た画像が人間が描いたものか、AI生成されたものかを判断してもらっています。
実験者は、Vienna Art Picture System(VAPS)のデータセットから風景画20点と、Disco Diffusionにその風景画の名前と作成者の名前をプロンプトに入れ、生成された風景画20点を用いました。
また評価時には参加者の眼球運動を測定しており、注意が向いた場所や観察時間に違いがあるのかを比較しています。
実験の結果、人間が描いた風景画とAIが生成した風景がに対する主観的な評価に差はありませんでしたが、人間が描いた絵のほうが、AIが描いた絵よりも見る時間が長くなりました。
またAIと人間のどちらが描いた絵なのかの判断においては、人間が描いた絵は約68%が正確に分類できたのに対し、AIが描いた絵を正確に分類できた確率は約43%に低下しました。
つまり、私たちは人間が描いたのか、AIが生成したのかを正確に判断することはできず、具体性や美しさなどの美的観点では同等の評価を下しましたが、人間が描いた絵に対して観察時間をより長く費やしたのです。
人間が描いた絵に対して観察時間を長く費やす、また人間が描いたと判断しやすい傾向を踏まえて、研究チームは次のように述べています。
「この研究結果は、AIが生成したアートに対する暗黙の偏見が存在することを示している。現在AIは、人間が行う創造的なタスクを実行できるようになったが、芸術的創造性は以前として人間だけの特有の能力とみなされているのではないか」
なぜ私たちはこのようなバイアスを持っているのでしょうか。
個人の作品の著作権侵害、プライバシー侵害、著名人のフェイク画像や動画作成による名誉棄損、雇用の喪失、シンギュラリティなど。
AI技術の急速な発展することで、社会がその仕組みや法律整備、倫理が追い付かず、さまざまな問題が表出しやすくなっています。
おそらくAI生成アートに対する潜在的で、ネガティブなバイアスは、このような問題を見聞きすることによって形作られているのと考えられます。
しかしこの研究は、風景を描いた写真しか使用しておらず、また参加者は日本人のみでした。
それゆえ、異なる種類の写真や、大規模でさまざまな人種の参加者を対象とした研究では、また違った結果が報告されるかもしれません。
その点に関してはさらなる研究が必要だと言えるでしょう。
参考文献
Eye-tracking study uncovers an implicit bias toward AI art — even when people cannot identify it
https://www.psypost.org/2024/02/eye-tracking-study-uncovers-an-implicit-bias-toward-ai-art-even-when-people-cannot-identify-it-221214
元論文
Eyes can tell: Assessment of implicit attitudes toward AI art
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38022746/#:~:text=The%20results%20showed%20that%20although,thought%20were%20made%20by%20humans.
Modulation of aesthetic value by semantic context: An fMRI study
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811908011099
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
ナゾロジー 編集部