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原発事故以来、チェルノブイリ立入禁止区域では、イノシシ、シカ、アライグマ、オオカミ、200種以上の鳥類など、多くの野生動物が再定着しています。
それら動物は被ばくしながらも、何世代にもわたって生き残っているのです。
そこで2014年、ラブ氏ら研究チームは、発がん性のある放射線に対するオオカミの反応を理解するために、調査を開始しました。
彼女たちは、チェルノブイリ立入禁止区域で生活するオオカミ(学名:Canis lupus)たちに、現在位置と放射性物質を検出する特殊な首輪を付けて追跡し、その血液を採取することで、オオカミたちの状態を詳しく分析することができました。
その結果、チェルノブイリ立入禁止区域のオオカミたちは、生涯にわたって毎日11.28ミリレム (mrem:1 レム = 0.01 シーベルト) 以上の放射線にさらされていることが分かりました。
ラブ氏によると、これは平均的な人間の労働者の許容被ばく量の6倍です。
では、どうして立ち入り禁止区域で生息するオオカミたちは、そのような状況でも生き続けられるのでしょうか。
研究チームが、立入禁止区域の内側のオオカミを外側のオオカミのDNAの違いを調べたところ、チェルノブイリ立入禁止区域内のオオカミたちは、放射線治療を受けているがん患者と同様に、免疫系が変化していました。
分析の結果、そのオオカミたちは、がんに関連する多くの遺伝子に変異が生じており、致死量レベルの放射線を受けているにもかかわらず、その影響に対して高い回復力をもっていることが分かりました。
オオカミたちは、放射線から身を守れるよう、過酷な環境に適応していったのかもしれません。
もちろん、さらなる研究が必要ですが、チームは「この発見が、ヒトにおける新たながん治療の開発につながる可能性がある」と期待に胸を膨らませています。
しかし残念なことに、新型コロナウイルス感染症とこの地域で進行中の戦争により、ラブ氏ら研究チームと協力者たちは、チェルノブイリ立入禁止区域に戻ることができていません。
それでも彼女らの研究は、2024年1月にワシントン州で開かれた生物学に関する年次総会「Society for Integrative and Comparative Biology」で発表されており、世界中が今後の進展を見守ることになるでしょう。
参考文献
Mutant Chernobyl wolves evolve anti-cancer abilities 35 years after nuclear disaster
https://www.newswise.com/articles/mutant-chernobyl-wolves-evolve-anti-cancer-abilities-35-years-after-nuclear-disaster
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。