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「リアル・ドリトル先生」と呼ばれているカーシェンバウム氏は、『Why Animals Talk(なぜ動物は話すのか)』の著者であり、「科学に頼るなら動物の言っていることが理解できる」と述べています。
では、リアル・ドリトル先生は、いったいどのように動物の声を理解しているのでしょうか。
彼によると、「動物の声の意味を理解するには、ただ聞くだけでは不十分」であり、「動物が何をしているかを理解する」ことが大切なのだとか。
実際、カーシェンバウム氏は、動物の声を理解するために、まず動物たちが出す音のスペクトログラム(周波数分析のグラフ)を作成します。
次いで特定のパターンに注目し、その音と、その時動物に何が起こっているかを関連付けることで、「声の意味」を把握しているのです。
例えば、次の動画では、イルカ、ブタ、オオカミの鳴き声を聞くことができます。
音声だけを聞いたカーシェンバウム氏は、それぞれの声の意味を説明することができました。
まずイルカ(バンドウイルカ)の声について、カーシェンバウム氏は、同じホイッスルが繰り返されていることに気づきました。
バンドウイルカは、お互いを認識するために、それぞれの生息地やコミュニティの影響を受けた固有のホイッスルを使います。
そのため彼は、この録音について、(不明な部分はあるものの)「1頭のイルカが、別のイルカに挨拶する場面を記録したもの」だと説明しています。
またブタの声については、そのスペクトログラムから、「周囲の仲間や状況を確認する短距離の通話」であることを特定しました。
しかも彼は、この声に「エサの存在」「ブタの感情」についての追加情報が含まれている可能性があると推測しており、もしかしたら「どけ、腹が減った」などと言っているかもしれないと述べました。
ちなみに、この音声サンプルは、「農場のブタが飼い主からエサを与えられる場面を記録したもの」であり、カーシェンバウム氏の推測は当たっている可能性が高いようです。
3つ目の声はオオカミの遠吠えです。
カーシェンバウム氏の分析によると、この遠吠えは「長くて平らであり、あまり変化がない」ものであり、これは「孤独な遠吠え」の典型なのだとか。
そして、オオカミたちが声の高さを上げたり下げたりしているのは、「全員が一緒になって吠えることで興奮している」ことを示すようです。
実は、この推測も当たっており、録音に出てくる「ゼファー」という最初のオオカミは、仲間が数頭しかいない保護区で生活しており、保護センターによると、「彼は孤独を感じていた可能性が高い」というのです。
このように、動物たちの声を理解できるカーシェンバウム氏は、確かに「リアル・ドリトル先生」と言えそうです。
では、私たちにも動物の声を理解することは可能でしょうか?
カーシェンバウム氏は、そのための簡単な方法も伝えています。
カーシェンバウム氏は、ほぼすべての動物の声を理解するための簡単なポイントを解説しています。
まず、最も簡単に見つけられる動物の感情の1つは、恐怖です。
ほとんどの動物において、叫び声は恐怖の表れであり、その際、声帯はコントロールされていません。
そのため、動物が叫び声をあげた時には、「大きな恐怖を抱いている」と簡単に推測できるのです。
また、動物たちが攻撃的な感情を抱いている時には、低い鳴き声を出す傾向があるようです。
その理由についてカーシェンバウム氏は、「コントラバスがバイオリンよりも低い音を出すのと同じように、より低い音はより大きな物体を意味する」と説明しています。
確かに巨大な動物たちの鳴き声は、往々にして、低くて重いものです。
つまり、動物たちは低い声を出すことで「自分を大きく見せ」、相手を威嚇するのです。
これらは、動物たちが行う「自分を大きく見せるためのボディランゲージ・振る舞い」とも共通していますね。
だからこそ動物たちは、服従や降伏の意を示したい時、自分を小さく見せるような「高い鳴き声」を発します。
それはボディランゲージにも表れており、動物たちが地面に向かって小さくしゃがみ、高くて弱々しい声を出す時には、「相手をなだめたい」「従順でありたい」という気持ちを伝えているのです。
これらの特徴は、動物を飼っている人であればすぐに共感できるものですね。
そしてカーシェンバウム氏のように、科学的な手法で分析できるようになると、一層動物たちの声に対する理解は深まるはずです。
とはいえ、カーシェンバウム氏は、「声の意味を理解すること」は「翻訳すること」ではないと説明しています。
彼によると、「動物は声でコミュニケーションを取っていますが、それは人間の言語とは別物」だというのです。
なぜなら「人間の言語とは、どんな概念でも、どんなトピックでも伝えることができるものであり、これほど無制限で膨大な情報量を伝達できる動物は、人間の他にいない」からです。
このように、動物と人間のコミュニケーションの違いを把握することも、動物の声を正しく理解するうえで大切なのでしょう。
次に動物と接する時、人間との違いや、動物の鳴き声の高さの変化、行動との関連性に注目してみてください。
もしかしたらあなたも、動物の気持ちがわかるリアル・ドリトル先生になれるかもしれません。
参考文献
Cambridge scientist dubbed the ‘real life Doctor Dolittle’claims he can talk to animals –so we put his skills to the test on clips of pigs, cats and dolphins (with incredible results!)
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-13024329/Cambridge-scientist-Doctor-Dolittle-talk-animals.html
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。