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どのような性格の人が長生きするのか。
この問いに関して昔から心理学の領域では多くの研究が行われ、社会的・経済的な地位や知能と同様に性格が寿命を予測する指標として有用であることが報告されてきました。
特に性格の中でも「誠実性(まじめさ)」は最も死亡率の低下と関連があることが知られています。
ノルウェーのヘルシンキ大学のマルクス・ジョケラ氏(Markus Jokela)らの研究チームは、英米をはじめオーストラリアなどの各国で実施された、性格と死亡リスクの関係性を調べた7件の研究をメタ分析しています。
その結果によると、誠実性の低さが死亡率リスクの増加と関連があり、誠実性が低い人は高い人と比較して約1.4倍も死亡率リスクが高いことが確認されました。
これは「誠実性」が高い人は、目の前の誘惑に強く、健康的な食事を取り、肥満になりにくい、また煙草や酒などに依存しにくく、犯罪に手を染める、交通事故に遭う確率も低いなどの特徴を有しているからだと考えられています。
つまり「誠実性」が高い人は死亡率リスクの上昇を招くような行動を取る傾向が低いことから、誠実性の高さで寿命を予測できると言われてきました。
しかしこれらの研究は自己申告で評価された性格と寿命の関係性を検討したもので、その評価には自己に対するポジティブな解釈などの歪みが含まれている可能性があります。
よく例としてより取り上げられるのが「社会的な望ましさ」で、性格などを自己評価する際に、社会的に求められるような人付き合いの良さや協調性の高さを本来よりも高いと評価してしまう傾向があります。
例えば「あなたはちゃんと約束を守りますか?」という質問に対して、ほとんど約束を守らない人間だったとしても自分では「たまに破るかも」くらいの評価に留まる場合が多いでしょう。
その自己評価におけるバイアスを回避するために用いられるのが、家族や友達による当人のことをよく知っている第三者からの評価を得る方法です。
先程の約束の質問であれば、友人なら「全然約束守らない人」については、「いやいやたまにじゃないだろ」と正確に評価してくれるはずです。
実際に自己評価と他者からの評価による性格のどちらが個人の行動の予測の精度が高いのかを比較したメタ分析の研究では、他者評価による性格のほうが第一印象や学業成績、仕事でのパフォーマンスを予測するのに優れていたことが分かっています。
これは「社会的望ましさ」などの自分に対するバイアスを除いた結果と言えるでしょう。
しかし死亡リスクと性格の関連性においては、自己評価の性格による検討しか行われていませんでした。
そこで米ワシントン大学のジョシュア・ジャックソン氏(Joshua Jackson)らの研究チームは、自己と他者どちらの評価による性格が寿命を予測する指標として優れているのかを調べています。
彼らは1935から1938年の3年をかけて参加者600名を集め、性格に関する質問紙に回答してもらいました。
また参加者のことを良く知っている人物3-8名(たとえば自分の結婚式に呼ぶつもりの友人)にも同様に質問紙に回答をしてもらっています。
そして2013年までの約75年間に渡って参加者を追跡し、亡くなった人に関しては死亡した日付を記録しました。
分析の結果、友人から誠実で、創造性が高いと評価された男性ほど、一方で精神的な安定性と協調性が高いと評価された女性ほど寿命が長い傾向がありました。
具体的には男性の「誠実性(真面目さ)」が平均値から1標準偏差高くなれば死亡リスクが約15%低くなります。
また他者評価による性格は、自己評価によるものと比較して、より死亡リスクを予測する指標として精度が高いことも分かっています。
研究チームは「この結果は人々が友人の性格を本人よりも正確に観察・評価し、数十年後の死亡率を予測できる可能性を示唆している。寿命を推定するうえで性格が予測因子として十分に機能することを示しており、友人からの性格評価が、その人の健康問題を理解するうえで重要な役割を果たす可能性を示唆している」と述べています。
ではなぜ自己評価よりも他者評価による性格の方が精度の高い寿命の予測因子になるのでしょうか。
ジャクソン氏は「他者評価が寿命を予測するのに優れている理由は主に2つ考えられる」と述べています。
1つはさきほどの約束を守るかどうかという問題のように、第三者による評価は、本人が見逃している部分を観察できている可能性があります。
次に第三者評価は、複数人(少なくとも3人以上)の平均によって算出されているからというものです。
前述したように自己評価には「社会的望ましさ」などのバイアスが存在しますが、複数人の平均値であれば個人が持っている偏見が相殺された可能性が考えられます。
自己評価での性格でも寿命を予測するのに十分な指標として機能します。
一度ネットで「big five 診断」と調べて、自分の性格を知ってみるのはいかがでしょうか。
Big Fiveに関する質問紙は、100問を超えるものが多く開発されてきましたが、近年は「Brief Big Five」のように10問程度で精度高く診断を終えることができるものもあります。
しかしより高い精度を求めるなら、自己評価よりも複数人の他者評価の平均値の方が寿命をはじめ実際の行動を予測する制度が高いです。
もし友人に会う機会があれば、自分はどのような性格だと思うかを聞いてみてはいかがでしょうか。自分の寿命を簡単に予測できるかもしれません。
参考文献
Friends know how long you’ll live, study finds
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150124120813.htm
This 83-Year Harvard Study Reveals a Surprising Secret About Friendship and Happiness
https://www.inc.com/jeff-haden/this-80-year-harvard-study-reveals-a-surprising-secret-about-friendship-happiness.html
An 85-year Harvard study found the No. 1 thing that makes us happy in life: It helps us ‘live longer’
https://www.cnbc.com/2023/02/10/85-year-harvard-study-found-the-secret-to-a-long-happy-and-successful-life.html
元論文
Your friends know how long you will live: a 75-year study of peer-rated personality traits
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25583945/
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。