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チームは2021年8月、アラスカ沖でザトウクジラが仲間内で挨拶するときに用いる「コンタクトコール(contact call)」を高音質で録音しました。
このコールは通称「ワップ(whup)」または「スロップ(throp)」と呼ばれ、ザトウクジラが仲間を呼んだり、お互いの居場所を知らせるために使います。
研究主任のフレッド・シャープ(Fred Sharpe)氏によると「ザトウクジラが発する社会的な音のレパートリーの中で最も一般的な信号のひとつ」だという。
チームは録音したコンタクトコールを調査ボートに搭載した水中スピーカーで流し、ザトウクジラがどう反応するか観察しました。
すると「トウェイン」と名付けられたメスのザトウクジラがボートに近づいて周囲を旋回し、さらに音声に対して応答し始めたのです。
チームは異なる間隔で36回の音声を流しましたが、トウェインはその度にコールを返し、会話のキャッチボールは約20分間も継続しました。
トウェインはその間に7回も水面に浮上してきたといいます。
また音声を流す間隔を変えてみると、トウェインもそれに応答するタイミングを合わせてきました。
例えば、トウェインへのコールバックを再生するのに10秒待った場合、トウェインの方もそれに応答するのに10秒待っていたのです。
30秒待った場合は、トウェインの方も30秒後に返答していました。
これはトウェインが適当に返事しているのではなく、意図的にタイミングを合わせて意味を持った会話をしようとしていることを示唆します。
その実際の映像がこちら。
これを受けて、同チームのブレンダ・マッコーワン(Brenda McCowan)氏は「人間とザトウクジラが、ザトウクジラの言葉を通じてコミュニケーションを取るのに成功した世界初の事例だ」と話しました。
チームは今回の成果が、来るべき地球外生命体とのコンタクトのためにも大いに役立つと期待しています。
SETI協会の主任研究員であるローランス・ドイル(Laurance Doyle)氏は、トウェインの行動について、地球外の知的生命体が人類を探し出す方法に似ている可能性があると指摘します。
「地球外の知的生命体を探索するときの重要な前提は『彼らが私たちとのコンタクト(接触)に興味を持ち、人類の受信機を標的に信号を送るだろう』ということです。
この重要な仮説は、今回のトウェインの行動によって確かに支持されています」
つまり、トウェインの鳴き声に対してこちらも音声を返す、さらに返答のタイミングを変えるとトウェインの方も合わせてくれたというのは、宇宙人とのコンタクトの際に予想されるやり取りの仕方です。
まさにチームは、スピルバーグ監督の名作SF映画『未知との遭遇』(1977)で、人類が宇宙人の母船に送った「ピ・ポ・パ・ポ・ピ♪」という特徴的なメロディーによる交信を目指しているわけです。
チームはこの異種間コミュニケーションの実現のため、今後はクジラの他にイルカやゾウといった賢い動物との会話実験を進めたいと話しています。
しかし異種間コミュニケーションで重要になるのは、自分たちが使っている音声の内容をちゃんと理解することでしょう。
相手が使う言葉の意味も分からず、ただ送り合うだけでは、あまり有意義なコミュニケーションになっているとは言えません。
また適当に送った信号で相手の機嫌を損ねてしまう可能性もあります。
こうした言語内容の壁を超えることも、異種間コミュニケーションを行う上で重要な課題となるはずです。
参考文献
Whale-SETI: Humpback Whale Encounter Reveals Potential for Non-Human Intelligence Communication
https://www.vetmed.ucdavis.edu/news/whale-seti-humpback-whale-encounter-reveals-potential-non-human-intelligence-communication
Scientists had a 20-minute “conversation”with a whale named Twain
https://www.earth.com/news/scientists-have-20-minute-conversation-with-a-humpback-whale-named-twain/
Scientists Contact Whales in World-First Communication Experiment
https://www.sciencealert.com/scientists-contact-whales-in-world-first-communication-experiment
元論文
Interactive bioacoustic playback as a tool for detecting and exploring nonhuman intelligence: “conversing” with an Alaskan humpback whale
https://peerj.com/articles/16349/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。