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理想的なリーダーと言われればどのような人物を思い浮かべますか。
外向性や誠実性が高く、さまざまな経験に対してオープンで、情緒が安定しており、適切にリスクを取ることができるなど社会的に望ましいとされる性格と合致する人物ではないでしょうか。
実際に、米フロリダ大学のティモシー・ジャッジ氏(Timothy Judge)らの研究では、過去に行われた73の研究をメタ分析(複数の研究報告を統合して分析すること)して、性格とリーダーシップの関係性を検討しています。
メタ分析の結果、やはり外向性が高い人物は昇進しやすく、最もリーダーに適していると結論付けています。
他にも2022年に「Journal of Personality」に投稿された、ドイツのHMU(Health and Medical University)のエヴァ・アッセルマン氏(Eva Asselmann)らの研究では、リーダーになる人の性格、そしてリーダーになる前後で性格がどのように変化したのかを調べています。
調査の対象になったのはリーダーの地位に就いた2,683名とリーダー経験のない33,663名でした。
彼らは参加者の性格をはじめ、自尊心やリスクに対する考え、自分のコントロール感、他者をどだけ信頼しているかなどを尋ね、リーダーになる人とならない人の性格の違いを比較しています。
調査の結果、リーダーになった人は外向性・誠実性、好奇心が高く、精神的に安定していて、リスクを取ることができ、自分自身の人生をコントロールできている感覚が強いことが分かりました。
明らかになったのはこれだけではありません。
特に男性に見られた傾向ですが、誰かに任命されるわけでなく、自然とリーダー的な立場につくようになった人も上記のリーダーになった人に近い性格・態度に近づくようになったのです。
リーダーに外向性を求められる理由として他人に指示を出すことが多く、試行回数が多い分だけ成功する可能性が高く昇進しやすいことや、周りに指示を出す行動の多さが管理職に求められる性質に向いているからなどが挙げられます。
しかしチームメンバーの中にプロジェクトに対してリーダーと匹敵するほど積極性が高い人がいた場合などにも「リーダーは外向性が高い方が良い」と言えるのでしょうか。
「船頭多くして船山に上る」ということわざがあるように、指示する人間が多いと命令系統で衝突が起き、物事が見当はずれな方向に進んでいく状況も考えられます。
そこで米ペンシルベニア大学のアダム・グラント氏(Adam Grant)らは、チームの構成員の積極性とリーダーの性格の関係性を調べました。
実験には大学生163名が参加しました。
彼らは参加者を5人1グループに分け、その中の1名をリーダーに任命し、10分間にできる限りTシャツをたたんでもらっています。
また参加者のモチベーションを高めるために、Tシャツの畳む枚数が上位10%に到達した場合には、iPod Nanoが商品として渡されることも伝えました。
研究チームはリーダーの振る舞いを実験操作すべく、リーダーになった参加者を2つの群に分け、以下の文章を読んでもらいました。
低外向性群:「科学的な調査で、内向的なリーダーが高いパフォーマンスを上げることが証明されている。マハマト・ガンディーなどのように物静かで、思慮深い人物がチームメンバーを成功に導く」という趣旨の文章を読む
高外向性群:「科学的な調査で、外向的なリーダーが高いパフォーマンスを上げることが証明されている。ジョン・F・ケネディなどのように大胆で、積極的な人物がチームメンバーを成功に導く」という趣旨の文章を読む
分析ではリーダーの外向性、そして他のメンバーの積極性の高低でTシャツを畳む枚数が変わるかを比較しています。
まず実験操作の確認として、低外向群の参加者は自己評価とメンバーからの評価の両方で内向的、高外向群は外向的であると評価されました。
そして実験の結果、前述した実験と同様にメンバーの積極性が低い場合には、外向性が高いリーダーのほうが、メンバーの積極性が高い場合には、外向性が低いリーダーのほうが多くのTシャツを畳むことができたのです。
ではなぜチームの構成員の積極性でパフォーマンスが高まるリーダーの性格が変わるのでしょうか。
それは意見やアイデアをを持っているメンバーとリーダーの間で衝突が起きるからではないかと考えられています。
実際に実験の中で積極性の高いメンバーは、外向的な振る舞いをしたリーダーよりも、内向的な振る舞いをしたリーダーに対し、個人の意見をよく聞き、変化に対して柔軟な考えを持っていると評価しています。
今回の2つ目の実験ではTシャツの効率の良い畳み方を一早く発見し、チーム全体で取り組む必要がありました。
この効率的なTシャツの畳み方は、リーダーが全体に指示するよりも、たまたま他のメンバーがどこかで知った良いやり方を全体で共有したほうが上手くいく可能性が高いと言えます。
このような状況はTシャツを複数人で畳む場面に留まりません。
企業の業務改善や企画のアイデアなど、中心メンバーだけで意見を出すよりも、全体の意見やアイデアを吸い上げることで、より良い解決策を発見できるかもしれないのです。
内向的なのにリーダーになってしまったと感じている人は、メンバーに積極的な人物を引き入れれば上手くチームを回せるようになるかもしれません。
内向的なリーダーは周りの話を上手く汲み取ることができ、結果としてメンバーは自分の意見が受け入れられたと感じ、モチベーションを高めることにつながるのです。
この報告は、仕事のチームを組む際、単にコミュ力が高い人物をリーダーにあてがえばチームが上手く動くわけでは無いことを示しています。
チーム全体を編成する立場の人は、チームメンバーの特性からリーダーとなるべき人物を考えるべきであり、もしあなたが自分でメンバーを選定できる立場のリーダーなら、自分の性格が外交的なのか内向的なのかを考慮して、仲間を指名すると上手くいくかもしれません。
参考文献
Do Extroverts Make Better Leaders?
https://www.forbes.com/sites/sallypercy/2019/06/10/do-extroverts-make-better-leaders/?sh=2d0de0b356fe
元論文
Reversing the Extraverted Leadership Advantage: The Role of Employee Proactivity
https://www.researchgate.net/publication/276054647_Reversing_the_Extraverted_Leadership_Advantage_The_Role_of_Employee_Proactivity
Personality and leadership: A qualitative and quantitative review.
https://psycnet.apa.org/record/2002-15406-013
Longitudinal bidirectional associations between personality and becoming a leader
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jopy.12719
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。