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しかし、シカゴ・フィールド自然史博物館(Field Museum)のファビアニー・ヘレーラ(Fabiany Herrera)氏と、彼の教え子であるコロンビア国立大のヘクトル・パルマ=カストロ(Héctor Palma-Castro)氏は、この化石を見て疑問に思いました。
ヘレーラ氏はこう話します。
「コロンビア国立大学の化石コレクションに行ってこの植物化石を見たのですが、写真を撮った瞬間に『これは変だ』と思いました。
確かにスフェノフィラム属の植物には似ていますが、その表面の模様は葉脈には見えなかったのです。むしろ何かの生物の骨のように見えました」
こちらが実際の化石の写真です。
現にフエルタス神父が植物として新種記載したときにも疑いの声は上がっていたという。
というのも、スフェノフィラム属はデボン紀〜三畳紀にかけて繁栄した陸生植物であり、それから1億年以上経った白亜紀(つまり化石が見つかった地層の年代)にはすでに絶滅していたからです。
そこでヘレーラ氏はかつての同僚であり、古生物に詳しいコロンビア・ロサリオ大学(UNR)のエドウィン=アルベルト・カデナ(Edwin-Alberto Cadena)氏に連絡を取り、再調査を行いました。
カデナ氏は送られてきた写真を見て、すぐに「これは明らかにカメの甲羅だと分かった」といいます。
ただフエルタス神父やその他の研究者が、化石を見てそうと気づかなかったのには訳がありました。
カメの甲羅に見られる典型的な模様がなかったからです。さらにこの化石はお椀型に少し凹んでいました。
しかしカデナ氏いわく、これはカメの甲羅の表側ではなく、裏側が化石の表面になるように保存されたことに原因があったといいます。
これに沿って化石の復元図を描いたのがこちらです。
カメの甲羅は肋骨が変形してできたものですが、ちゃんと正中線の背骨を境に肋骨が左右に並んでいるのがわかります。
またカデナ氏は「一般的にカメの幼体は甲羅がとても薄くて簡単に壊れてしまい、化石として残りにくいため、これは本当に貴重な発見です」と話しました。
それからチームは化石から年齢分析をしたところ、このカメは孵化後の成長段階にあり、1歳頃に死んでいたことが特定されています。
一方で、このカメの正確な種類までは分かっていません。
ただチームは、同じ白亜紀に生息していた「プロトステガ科(Protostegidae)」という古代ウミガメの近縁種ではないかと考えています。
実際、この科の最古の種である「デスマトケリス・パディライ(Desmatochelys padillai)」が2015年にコロンビアで発見されていました。
ヘレーラ氏らはフエルタス神父の誤りを責めるつもりは一切ありません。
今回のカメの化石とスフェノフィラム属の化石は確かに似ており、古生物学の専門家でもなければ、カメの赤ちゃんの甲羅の裏側だとは到底判別できないからです。
そこでチームはこの化石に、カメと植物のハーフであるポケモンにちなんで「ナエトル(英名でTurtwig)」という愛称を付けました。
ナエトルとは、ポケットモンスター「ダイヤモンド・パール」の御三家の1匹であり、頭の上にちょこんと生えた若葉が愛らしい生き物です。
パルマ=カストロ氏は「ポケモンの世界では、動物・機械・植物など、2つ以上の要素を組み合わせる特徴があり、今回は植物に分類されていたカメということで、すぐにナエトル(Turtwig)の名前が思い浮かびました」といいます。
チームはまた、この発見が示すように、博物館の化石コレクションを再訪して、古い化石を新たに調べ直すことの重要性を再認識したと話しました。
世界中の博物館には他にも、まったく違う動物や植物として記録されている化石がたくさん眠っているかもしれません。
参考文献
132-Million-Year-Old Mystery Fossil’s True Identity Is Finally Revealed
https://www.sciencealert.com/132-million-year-old-mystery-fossils-true-identity-is-finally-revealed
It turns out, this fossil plant is really a fossil baby turtle
https://www.eurekalert.org/news-releases/1010060
元論文
An Early Cretaceous Sphenophyllum or a hatchling turtle?
https://palaeo-electronica.org/content/current-in-press-articles/4017-fossil-plant-or-turtle
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。