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そして従来のVRアプリのほとんどは、人間の視点で物事を体感できるよう設計されています。
しかし、この技術を発展させるなら、本来では絶対にありえない「動物の視点」で様々な疑似体験を楽しむこともできます。。
この度、岐阜大学工学部に所属する藤嶋駿輔氏ら研究チームは、鮎を丸呑みする「鵜(う)」を体験できるVRシステムを開発しました。
このユニークなデバイスを用いるなら、VR上で鵜になりきって、暴れる鮎を口に咥え、「のどごし」を感じながら丸呑みすることができるのだとか。
研究の詳細は、2023年9月付の『第28回 日本バーチャルリアリティ学会大会論文集(PDF)』にて発表されました。
目次
「鵜(う)」とは、鳥類のウ科(学名:Phalacrocoracidae)を指す名称です。
全長45~101cmほどのこの鳥たちは、世界の様々な河川や湖沼、海岸などに生息しています。
日本では、海岸に生息する「ウミウ(海鵜)」や、河川や湖沼に生息する「カワウ(川鵜)」などを見ることができます。
そして「鵜呑みにする」という言葉の起源ともなっているように、これら鵜は、魚を噛まずに丸呑みすることで有名です。
この習性を利用した漁も存在しており、日本には古くから、船の上から紐で結んだ鵜を操り、鮎を取らせる「鵜飼」があります。
今回、藤嶋氏ら研究チームは、この「鵜飼」において、鵜を操る人間ではなく、鵜そのものの視点を再現し、視覚・音・振動で丸呑みを体感できるVRシステム「Grutio Hydra」を開発しました。
このシステムは、VRゴーグルとヘッドホン、くちばし、首に装着するデバイスで構成されています。
まずゴーグルとヘッドホンにより、体験者は鵜が見ている世界と音を味わえます。
VR上には川の風景が広がっており、実際の鵜飼のようにかがり火が灯っています。
水面にも鮎の魚影が映し出されており、水中に潜って鮎を見たり、捕まえたりできるのです。
そして鵜が、くちばしを上に向けて、捕まえた魚を丸呑みする行動もリアルに再現されています。
参加者がくちばしを上に向けると、モーターにより振動するため、「咥えた鮎が逃げようと抵抗する感覚」が味わえます。
さらに丸呑みする時には、アニメーションや音とともに、首に装着したデバイスが体験者の首の皮を引っ張るようになっています。
これにより鵜の喉を鮎が通過する際の「のどごし」が再現され、まるで自分が鵜になって鮎を丸呑みしているかのような感覚が得られるのです。
しかも喉元を冷却するデバイスも同時に働くため、「鮎が喉を通った時の冷たくなる感覚」さえも楽しむことができます。
ちなみに、学生を中心としたチームでインタラクティブ作品を企画・制作するチャレンジ「IVRC」の2023年のコンテストでは、この作品が実際に展示され、1つの賞を獲得することもできました。
動画ではその様子が映し出されており、「皆さんは今から鵜です」という興味をそそる言葉で紹介されています。
研究チームは論文の中で、「この体験を通して鵜飼に興味をもち、実際の鵜飼を見学に来る人が増えることを願う」と述べています。
こうしたユニークなデバイスや体験は、VR技術の可能性を示すものとなりました。
私たちが疑似体験できるのは、人間の視点だけではないのです。
VRシステムを活用することで、私たちは、動物にも、虫にも、魚にも、もしかしたら非生物にさえ「なりきる」ことができるでしょう。
そうした今まで見ることのなかった視点を体感する技術が、私たちに新しいインスピレーションをもたらしてくれるかもしれません。
参考文献
IVRC2023 LEAP STAGEの受賞作品が決定しました
https://ivrc.net/2023/release3/
元論文
お前は今から鵜だ ~長良川鵜飼での鮎まるのみ体験~(PDF)
https://conference.vrsj.org/ac2023/program/doc/IVRC-08.pdf
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。