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インフルエンザや新型コロナを含め、様々なウイルス感染症が、発熱や痛みなどの全身症状を引き起こすだけでなく、長期にわたる倦怠感や意欲低下を招くことが知られています。
このうち、発熱や体の痛みについては詳しいメカニズムが十分に解明されてきました。
その一方で、熱が引いた後もつづく倦怠感や体の疲れに関しては、その実態が明らかになっていません。
しかしながら、発熱後の倦怠感や疲労感を訴える患者では、脳内の一部で炎症が生じていることが分かっています。
このことから、ウイルス感染後の倦怠感には脳内炎症が深く関わっている可能性が指摘されていました。
そこで研究チームは今回、脳内炎症を高感度で検出できるイメージング技術を使って、ウイルス感染したラットの脳内炎症を定量評価することに。
加えて、それをラットに見られる倦怠感のレベルと比較することで、ウイルス感染による「脳内炎症」と「倦怠感」の関連性を検証しました。
チームはまず、ウイルス感染時によく似た全身症状を引き起こすことで知られる「合成2本鎖RNA(poly I:C)」をラットに投与し、疑似感染で発生した身体症状について検討しています。
その結果、投与2時間後から血中の炎症性サイトカイン(※)が著しく上昇し、発熱が数時間にわたって持続することが確認されました。
特に体温変化を見ると、投与から5時間後に発熱のピークが来て、24時間後までには平熱に戻っています。
(※ 炎症性サイトカインは、炎症反応を促進する働きを持ち、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする)
次に、疑似感染が引き起こす倦怠感を定量評価するため、ラットの自発行動量の変化をモニタリングしました。
自発行動の多さは意欲の高さと関連しており、倦怠感は行動意欲を低下させることが知られています。
観察の結果、感染後に自発行動量は大幅に低下し、数日間かけてゆっくりと回復することが分かりました。
要するに、熱が引いた後でも倦怠感が持続していることが確認されています。
そして最後に、問題の「脳内炎症」が感染によって生じているかどうかを脳内イメージング技術で調べました。
その結果、poly I:Cの投与1日後に脳内の広範な領域において炎症が起きていることが判明したのです。
特に脳内炎症が多いほど、自発行動の低下量(つまり倦怠感)も増大していました。
さらに、炎症が見られた各領域ごとの「脳内炎症」と「自発行動量の低下」を比べたところ、背側縫線核(はいそくほうせんかく)での脳内炎症が多いほど、倦怠感も増大していることが特定されました。
背側縫線核は、中脳から脳幹の内側部に位置し、セロトニンを分泌する神経細胞が多く分布しています。
セロトニンとは、気分を調節し精神を安定させる働きをする神経伝達物質の一つです。
実際、脳内のセロトニン濃度を上昇させることで抗うつ効果が得られることが分かっています。
このことから、背側縫線核の脳内炎症により、セロトニン神経機能が何らかの異常をきたしたことで、長期的な倦怠感が生じている可能性が高いと結論されました。
以上の結果は、熱が引いた後にも倦怠感や疲労感が長引くメカニズムを説明する貴重な成果です。
チームはこれを受けて、インフルエンザや新型コロナをはじめとした様々な感染症による慢性的な倦怠感の緩和や治療法の確立につながると期待しています。
参考文献
熱が引いても疲れが取れない理由-ウイルス感染後の長引く倦怠感に脳内炎症が関与-
https://www.riken.jp/press/2023/20231124_2/index.html
元論文
Regional neuroinflammation induced by peripheral infection contributes to fatigue-like symptoms: a [18F]DPA-714 positron emission tomography study in rats
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2023.1261256/full
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部