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量子物理学が紐解く最も不思議な現象のひとつに、超流動体の存在があります。
超流動体とは、ある極低温の条件下で特定の液体が示す、摩擦や粘性が実質的にゼロになるという驚くべき性質を持つ状態です。
この状態での液体は、容器の壁を這い上がって溢れ出たり、永遠に動き続けたりすることができます。
たとえば、コーヒーカップを傾けると、ある一定の角度に達すると、コーヒーは注ぎ口から出てきます。
しかし、超流動ヘリウムの世界では、コーヒー(この場合は超流動ヘリウム)はカップの側面を上って、外側に溢れ出し、そしてカップの下を通って再びカップの中に戻ってくるかもしれません。
そして、一度動き出したら、永遠にその運動を続けることができます。
この現象は、摩擦がないという超流動体の性質を示しており、理論上は外部からのエネルギー供給がなくても永遠に動き続けることができるとされています。
また、ある科学者が冷蔵庫で超流動ヘリウムの実験をしていたとき、彼はヘリウムが容器から漏れ出し、冷蔵庫の中を自由に流れる様子を発見しました。
実は、超流動ヘリウムは密閉された環境でも、容器の微小な隙間を見つけて逃げ出すことができるのです。
これらの事実は、超流動体がただの液体ではなく、量子力学の不思議な性質を具現化したものであることを示しています。
しかし既存の研究は超流動体の物理学的な性質の解明が主なテーマであり「人間が触ったときにどのように感じるか?」といった人間中心の疑問は、スルーされてきました。
そこで今回ランカスター大学の研究者たちは、超流動体として知られるヘリウム3に、指ほどの大きさのセンサーを挿入して測定を行いました。
量子的性質を持った超流動体は、いったいどんな感触だったのでしょうか?
超流動体はどんな感触なのか?
センサーからのデータを分析すると、驚きの結果がみえてきました。
コップの中にある冷たい水に指を突っ込んだ場合、指から水に向けて熱が流れ、水全体の温度が上がっていきます。
また指を動かすと水の三次元的な広がりを感じることができるでしょう。
しかし超流動体の場合は大きく異なっており、挿入されたセンサーと熱的機械的な相互作用が行われるのは、超流動体とセンサーが接触する部分に形成された、極めて薄い二次元的な層に限定されていたのです。
そのため冷たい超流動体に浸された指から熱が伝達されても、熱は超流動体の内部に浸透することはなく、指と超流動体の二次元的な接触面に沿って流れるだけとなります。
また観測データから、二次元的な膜は超流動体の内部とは独立した別の超流動体システムとして機能することがわかりました。
(※同じ超流動体ヘリウム3でありながら、指との接触面と内部で異なる特性を持つということです。)
研究者たちはこの結果について「この液体に指を突っ込むことができたとしても、あたか二次元のように感じられる」と述べています。
そして超流動体の内部は完全に受動的な領域で真空のように機能し、なにも存在しないかのように感じられることがわかりました。
加えて超流動体の性質により、浸している指の上に向けて超流動体が徐々に登ってくるのを感じることになります。
より簡単な言葉でまとめると、超流動体に指を突っ込んでも二次元の膜のように感じられ、指から離れた熱がまた指に戻り、二次元層が指の表面を這いあがってくるという奇妙な感覚を味わうことになります。
研究者たちはセンサー(指)と超流動体の二次元的な膜の関係を理解することで、粘度や熱伝導率など独自の特性を備えた新しい材料を開発できると述べています。
参考文献
What a “2D” quantum superfluid feels like to the touch https://www.eurekalert.org/news-releases/1006638元論文
Transport of bound quasiparticle states in a two-dimensional boundary superfluid https://www.nature.com/articles/s41467-023-42520-y