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それから中央アジアのデニソワ洞窟で化石が見つかったデニソワ人などもいます。
これら絶滅人類のDNAは、現生人類がヨーロッパやアジア方面に拡散する中で、私たちの祖先のゲノムの中に流入しました。
そのため、現在でも一部の人々はネアンデルタール人やデニソワ人のDNAを持っていることが知られています。
一方で、絶滅人類のDNAが具体的にどんな形で現代人の見た目や遺伝子に現れているのかはよく分かっていません。
そこで研究チームは今回、「GLI3(グリ・スリー)」と呼ばれるタンパク質に注目しました。
GLI3は脊椎動物の胚の発生プロセスにおいて、手足や中枢神経系といった器官形成に重要な役割を果たしています。
タンパク質は20種類のアミノ酸の配列から成りますが、興味深いことに、ネアンデルタール人やデニソワ人のGLI3では、1537番目のアルギニン(R)が別のアミノ酸であるシステイン(C)に変異しているのです。
なので、絶滅人類のGLI3は正式に「GLI3 R1537C」と呼ばれています。
こうしたアミノ酸配列の変化は、タンパク質の構造や機能に影響を及ぼすと予測されます。
そこでチームは、絶滅人類のGLI3がどんな働きをするのか、さらに生きた個体に組み込むとどうなるのかを検証しました。
GLI3は様々な遺伝子の活性化をコントロールする「転写因子」と呼ばれるタンパク質の1つです。
具体的にいうと、DNA上の特定の配列を認識し、そこに直接くっつくことで、近くの遺伝子の発現をスタート / ストップさせたり、その量を増加 / 減少させたりします。
そこでチームは、ヒト由来の培養細胞を用いて、絶滅人類型のGLI3 R1537Cが遺伝子の活性化にどんな影響を及ぼすかを調べました。
その結果、GLI3 R1537Cは、GLI3の大切な役割の一つである器官形成の機能には支障をきたさないことが確認されています。
しかし他方で、細胞増殖をコントロールする遺伝子や骨形成に関わる遺伝子の発現に影響が出ていることが分かりました。
では実際に、GLI3 R1537Cを生きた個体に組み込むとどうなるか?
チームは絶滅人類のタンパク質変異が個体の発生に与える影響を調べるため、マウスの胚にGLI3 R1537Cを導入しました。
するとマウスは正常に生まれて、問題なく成長したのですが、面白いことに、通常のマウスよりも頭蓋骨が丸みを帯びて、大きくなっていたのです。
加えて、肋骨の異常な「ねじれ」や数の増加、腰椎の数の減少を示す個体が増えることも分かりました。
こちらが実際の写真です。
以上の結果は、絶滅人類に由来するGLI3が、ヒトを含む哺乳類の遺伝子や体の特徴に大きな変化を与えうることを示すものです。
実際、一部の現代人の中にもGLI3 R1537Cを持つ集団が存在しており、それらは現生人類の祖先とネアンデルタール人あるいはデニソワ人が交雑する中で受け継がれました。
これまでの調査によると、特にイギリス人やアメリカ南部の人々に多いことが知られています。
もしかしたら彼らには、ネアンデルタール人やデニソワ人に近い何らかの身体的特徴が表れているのかもしれません。
参考文献
ネアンデルタール人が持っていたタンパク質が骨格の変化をもたらすことを発見 ―ヒトの多様性や疾患に関わるゲノムの理解に貢献― https://research-er.jp/articles/view/127626元論文
A Neanderthal/Denisovan GLI3 variant contributes to anatomical variations in mice https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2023.1247361/full