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この現象は、夜光虫(学名:Noctiluca scintillans)などで有名な生物「渦鞭毛藻(うずべんもうそう)」が引き起こしています。
今回、アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校の機械航空宇宙工学部に所属するシャンチエン・カイ氏ら研究チームは、渦鞭毛藻が刺激で光る性質を利用し、物理的負荷で発光する「生きた材料」を開発しました。
新しい材料は過酷な環境でも5カ月間、その機能を失うことがありません。
研究の詳細は、2023年10月20日付の科学誌『Science Advances』に掲載されました。
目次
「夜の海を青白く輝かせるプランクトン」といえば夜光虫が有名ですね。
La lluvia en una bahía con organismos bioluminiscentes parece sacada de Avatar pic.twitter.com/2u5ME40xvM
— Ciencia Infusa (@ciencia__infusa) May 30, 2023
この夜光虫は、海水や淡水に見られる生物「渦鞭毛藻(うずべんもうそう)」の一種です。
そして渦鞭毛藻の中には、夜光虫のように刺激を受けると発光するタイプが存在し、波や雨の刺激で輝きます。
サンディエゴのビーチでも、幻想的な輝きを見ることができました。
この時、カイ氏ら研究チームはインスピレーションを受けたようです。
「渦鞭毛藻を利用するなら、電子機器や外部電源を必要としない発光材料を開発できる」と考えたのです。
そして今回用いられたのは、渦鞭毛藻の一種「Pyrocystis lunula」です。
「夜光虫(学名:Noctiluca scintillans)」も「Pyrocystis lunula」も同じ渦鞭毛藻の仲間です。
ただし夜光虫は、渦鞭毛藻に分類されていながら、葉緑体を持っていません。
一方、「Pyrocystis lunula」は葉緑体を持っています。
「Pyrocystis lunula」は、夜光虫と同じく「青白く発光する生物」ですが、光合成によってエネルギーを補充できるというメリットがあるのです。
研究チームは、この利点を生かした材料を開発するために、有名な夜光虫ではなく、「Pyrocystis lunula」を用いました。
研究チームは、この光る渦鞭毛藻とアルギン酸(褐藻などに含まれる多糖類で、食物繊維の一種)を混合したヒドロゲルを作成しました。
また疎水性コーティングを追加することで、弾力性と耐久性を高めることに成功。
結果として、物理的負荷で発光する柔らかい「生きた材料」が誕生しました。
この新しい材料は、圧縮、伸張、ねじれを受けると、材料内の渦鞭毛藻が反応して光を発します。
しかも加えられる力が大きくなるほど、輝きも強くなるのです。
実際に材料を指でつつくと青白く輝きます。
また、シート状の材料を棒でなぞると、なぞった部分だけが綺麗に光ります。
そして、この新しい材料のメリットは、メンテナンスが最小限で済むことです。
材料内の渦鞭毛藻が機能し続けるために必要なのは「明暗の周期的なサイクル」だけであり、明るい環境で光合成を行っているなら、暗い環境で発光できるのです。
加えて材料は、過酷な環境(海水、酸性およびアルカリ性の溶液)でも、発光特性を失うことなく、約5カ月間機能し続けました。
このような生物と人工材料を組み合わせる「バイオハイブリッドシステム」は、構築と維持が難しかったり、刺激に対する反応が遅かったりするため、実際に作られることはほとんどありませんでした。
そのため今回の成果は、従来のバイオハイブリッドシステムの壁を打ち破るものとなっています。
研究チームによると、渦鞭毛藻を利用した材料は、圧力やひずみを測定するセンサーとして利用できる可能性を秘めています。
また将来的には、光信号を利用した治療や薬物放出の制御を行うソフトロボットの開発に繋がるかもしれません。
青白く輝く幻想的な藻類は、材料に閉じ込めると、人間にとって「便利な道具」になるのです。
参考文献
Soft, Living Materials Made With Algae Glow Under Stress元論文
Ultrasensitive and robust mechanoluminescent living composites