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最近恥ずかしい思いをした経験を思い出してください。
多くの人の前で失言してしまったり、気付かないうちに着ている服に食べ物のシミが着いていた、などさまざまなケースがあると思います。
こうした状況を思い返したとき、自分が周りからジロジロと注目されていたという感覚が浮かぶのではないでしょうか。
しかし、実際は周りの人は特にあなたに注目していない場合がほとんどです。このような相手の心理を自分の感覚によって誤って評価してしまうことを、「自己中心性バイアス」と呼びます。
ではこの自己中心性バイアスは、実際現実とどれほどかけ離れて知覚されているのでしょうか?
これについてコーネル大学のトーマス氏ら研究チームが2000年に調査を行っています。
この研究では、参加者に注目が集まる状況を作り出し、自分の存在に気付いている人の数を予測してもらい、実際に気付いた人の数と比較しています。
実験に参加したのは、大学生109名でした。
参加者は以下の「観察者役」と「ターゲット役」と「コントロール群」3つのグループに分けられました。
観察者役:実験者が指定した教室に向かい、全員が揃うのを待つ
ターゲット役:恥ずかしいTシャツ(当時大学生から人気がなかった米国の歌手であるバリー・マニロウ(Barry Manillow)の顔がプリントされている)に着替えてもらい、遅れて指定された教室に向かう
コントロール群:「観察者役」の参加者が待っている教室に「ターゲット役」の参加者が入室し、退出する様子を撮影したビデオで見る(自己中心性バイアスを排して、客観的に教室の状況を評価する人たち)
※実験でかなり不名誉な使われ方をしている「バリー・マニロウ」について、日本人の我々には何が恥ずかしいのかあまりピンと来ませんが、これは日本向けに表現するなら有名は有名だけど演歌歌手のTシャツを着てもらったようなものだと想像してもらえば良いでしょう。
北島三郎が大写しになったTシャツを着て遅刻して教室に入っていったら確かに恥ずかしいでしょう。
ターゲット役の参加者が教室に入る時には、既に観察者役の実験参加者が集まっており、教室の入り口から一番近い前の席に着席した後、すぐに退出してもらっています。
そして「ターゲット役」と「コントロール群」の参加者に、最後に部屋にいるどれくらいの人が、ターゲット役の参加者が着ているTシャツの写真に気づいたと思うか、またTシャツに描かれていた人物が分かるかを予測してもらいました。
また「観察者役」の参加者にはTシャツに「バリー・マニロウ」がプリントされていることに気付いていたかを回答してもらいました。
さて観察者役、コントロール群で、Tシャツの存在に気付いている人数の予測に違いはあったのでしょうか。
実験の結果、「コントロール群」の参加者はTシャツに人物がプリントされていることに気づいた人は全体の約27%、プリントされている人物が「バリー・マニロウ」であることに気づいた人は全体の約23%程度であろうと予測しました。
一方で、ダサいTシャツを着て恥ずかしい思いをした「ターゲット役」の参加者は、全体の約47%が自分の着ているTシャツの人物が「バリー・マニロウ」であることに気づいているだろうと予測しました。
しかし実際にTシャツにプリントされている人物が「バリー・マニロウ」であると気づいていた人は、全体の約23.5%でした。
つまり、「コントロール群」の参加者がある程度正確に気付いた人の数を予測できたのに対し、「ターゲット役」の参加者は約2倍以上も過剰に周りの人にダサいシャツを着ていることがバレていると考える傾向があったのです。
しかしこの現象は、ダサいTシャツを着ていることによる恥ずかしさによるものなのでしょうか。
実験2では、実験1と同じ形式でTシャツにプリントされている人物をマーチン・ルーサー・キング・ジュニアやボブ・マーリー、ジェリー・セインフィールドの3人の有名人から、参加者が自由に選ぶことができるようにしました。
ここでは「ターゲット役」の参加者は、自分が選んだ、有名人がプリントされたTシャツを着ることを、誇らしく嬉しいと感じていたことが確認されています。
実験の結果、「ターゲット役」の参加者は、全体の約45%が自分の着ているTシャツの人物が誰であるか周りは気づいているだろうと予測した一方で、実際は全体の約6%しか気付いていませんでした。
これは恥ずかしいTシャツを着て、困惑するようなネガティブな感情状態でのみ、自分が周りの注目を集めていると考えるのではなく、誇らしさや嬉しいといったポジティブな感情状態でも生じる可能性を示唆していると言えるでしょう。
研究チームは、この自分の行動や存在に周りから過剰に注目が集まっていると考える傾向を「スポットライト効果」と呼んでいます。
スポットライト効果が生じる理由は、自分の視点からの考えや内的状態を起点として他者の考えや内的状態を推測するからだと考えられています。
他者と自分の感覚は同じはずがありません。
それゆえ、自分の視点を起点にした場合、修正を行って他者の考えや内的状態を推測しなければなりません。
しかしここで自分が感じているのと同じように他者も感じていると過大評価してしまい(自己中心性バイアス)、現実とかけ離れた予想をしてしまうのです。
スポットライト効果は、自分の視点からの考えや内的状態を起点する点において、自己中心性バイアス表面化したものだと言えるでしょう。
次に恥ずかしい思いをするような失敗をしても安心してください。
自分の思っているほど、周りの人は、その失敗を見ていませんし、気付いていない可能性が高いのです。
参考文献
All Eyes on Us: The Spotlight Effect
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/parenting-neuroscience-perspective/202206/all-eyes-us-the-spotlight-effect
元論文
The spotlight effect in social judgment: An egocentric bias in estimates of the salience of one’s own actions and appearance.
https://psycnet.apa.org/record/2000-13328-002