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臓器移植を受けたとしても、その臓器はあくまで「他人の臓器」です。
身体の免疫系は移植された臓器の細胞を異物として認識し、拒絶反応を起こして攻撃します。
これを抑えるために患者は免疫抑制剤を服用し続ける必要がありますが、この薬は同時に、患者がもつ他の病気に対する免疫も低下させてしまいます。
そのため私たちにとっての理想は、「自分の細胞から臓器を複製して移植する」という方法でしょう。
これを可能にするのが「幹細胞科学」と「3Dバイオプリント技術」です。
幹細胞は、分化能(様々な細胞に分化する能力)と自己複製能(同じ細胞を分裂して作る能力)をもっています。
そのため患者由来の幹細胞を用いて臓器を構成する様々な細胞を生産し、それを組織としてプリントするなら、拒否反応のない「患者自身の臓器」を作り上げることができるでしょう。
このビジョンは、まさに現代医学の夢であり、多くの研究機関が挑戦を続けてきました。
2020年には、アメリカのピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)が小型のヒト肝臓をバイオプリントし、マウスに移植することに成功しています。
そして今回、スタンフォード大学の研究チームに所属するスコット氏によると、彼らも「夢に手が届くところまで来ている」ようです。
スタンフォード大学のスコット氏ら研究チームは、心臓のバイオプリントに挑戦しています。
現在彼らが使用している自動化バイオリアクターは、心臓の脈動時の収縮を担う心室心筋細胞や心房心筋細胞、ペースメーカーとして機能する細胞、マクロファージと呼ばれる免疫細胞など、心臓を構成する何十億もの細胞を2週間で生産することができます。
そして今回、スコット氏ら研究チームは、医療高等研究計画局(ARPA-H)との2630万ドル(約40億円)の米国連邦契約を獲得し、「生きたブタにバイオプリントした人間の心臓を移植し、生存率をテストする」プロジェクトを開始しました。
ARPA-Hは2022年に大統領予算の一部として提案された資金提供機関であり、従来の研究や商業活動では容易に達成できないブレイクスルーを促進することを目的としています。
ARPA-Hから資金提供されたということは、スコット氏らのプロジェクトが、現代の医療に革新をもたらす可能性があるということです。
今後、彼らは膨大な細胞とバイオプリント技術を使って、心臓の全ての設計ルールを把握していく予定です。
そして5年以内に、重度の先天性免疫不全症を患うブタ(拒絶反応を防ぐため)に、バイオプリントされた人間の臓器を移植することを目標にしています。
ブタと人間の臓器はサイズや生理機能が近いため、このプロジェクトが成功するなら、人間への移植が近づいたことになります。
現代医学の夢と挑戦は、今回の資金提供により加速し、確実に前進しています。
参考文献
Moonshot effort aims to bioprint a human heart and implant it in a pig https://news.stanford.edu/2023/09/28/moonshot-effort-aims-bioprint-human-heart-implant-pig/ Stanford to bioprint human hearts for implantation into live pigs https://newatlas.com/medical/3d-bioprint-human-hearts-implant-live-pigs/