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加えて、遺伝子調査から人参は9〜10世紀に西アジアと中央アジアで栽培化された証拠が得られました。
そしてオレンジ色の人参は15〜16世紀の西ヨーロッパで最初に現れたことが示唆されています。
研究主任のマッシモ・ロリッツォ(Massimo Iorizzo )氏は、オレンジ色の人参は西ヨーロッパに持ち込まれた白色と黄色の人参をかけ合わせたことで生まれた可能性が高いと話します。
実はこれまでの研究で「オレンジ色の人参を開発したのはオランダ人だった」という説が有力なものとして伝わっています。
オランダの生産者は16世紀末、人参の品質を向上させるためにいくつかの実験を開始しました。
彼らはそれ以前に流通していた紫色や黄色、白色の人参を交互に交配させ始めたのです。
その後、何世代にもわたって交配を繰り返す中で、それまでの人参に比べて甘みが強く、害虫にも強い品種が生まれました。
それがオレンジ色の人参だったのです。
この説は場所や時代を踏まえると、今回の調査結果とも一致します。
またオランダの生産者には人参の品質を改良する他に、別の目的があったといいます。
それが当時のオランダ王室であるオラニエ=ナッサウ家(Huis Oranje-Nassau)に敬意を表するというものです。
この王家は現在もオランダ王室として続いていますが、オラニエ(Oranje)とはオランダ語で「オレンジ色」を意味します。
オランダのナショナルカラーがオレンジ色なのも、ここに由来しています。
生産者たちはこのオラニエ=ナッサウ家を讃えるために、オレンジ色の人参を普及させようとしたのかもしれません。
この逸話が真実なのかは今回の研究とは別の話ですが、いずれにせよオレンジ色の人参はこの頃から急速に普及しはじめ、紫や黄色の品種に取って代わるようになりました。
味や香りが良かっただけでなく、害虫に強く収穫量も多くなったからです。
さらに19〜20世紀に、オレンジ色の元となる「カロテン」に高い栄養価があることが科学的にも証明されたことで、一気に世界中に広まります。
オレンジ色の人参に含まれるカロテンは、摂取すると体内でビタミンAに変換され、栄養効果を発揮します。
主には抗酸化作用による動脈硬化や老化の防止、それから目の粘膜を健康に保って、眼病を予防する効果などです。
ちなみにカロテン(Carotin)は、カボチャやほうれん草など多くの野菜に含まれていますが、最初に人参(carrot)から単離されたことでこの名前が付けられました。
身近な野菜にも、こうした様々な歴史や遺伝的秘密が隠されているのです。
参考文献
What Makes a Carrot Orange? https://news.ncsu.edu/2023/09/what-makes-a-carrot-orange/ How carrots get their trademark orange color https://www.popsci.com/health/orange-carrot-gene/ Carrots were originally purple, not orange. Here’s what happened https://www.zmescience.com/feature-post/health/food-and-nutrition/purple-carrots-21032011/元論文
Population genomics identifies genetic signatures of carrot domestication and improvement and uncovers the origin of high-carotenoid orange carrots https://www.nature.com/articles/s41477-023-01526-6