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特に自然に分解されにくい「残留性有機汚染物質(POPs)」が河川に放出されるなら、最終的に私たちの食料や飲料水にまで混入してしまう恐れがあるのです。
しかも水をろ過するための現在のシステムの多くは、高いコストがかかり、たくさんのCO2を排出する場合があります。
そのため、環境に優しく、低コスト、しかも拡張性のある新しいタイプの汚水処理システムが求められています。
今回研究チームは、新しいシステムとして地球上で小さな生物の代名詞でもある「ミジンコ」に着目しました。
ミジンコは水中で生息する甲殻類であり、水中から微小なプランクトン類、残骸、粒子をこしとって食べる「ろ過摂食者(filter feeder)」です。
オルシーニ氏は、この特性から「ミジンコが汚水をろ過して汚染物質を取り除いてくれるかもしれない」と考えたのです。
水処理プラントのタンクに大量のミジンコを入れ、汚染物質を取り込ませるなら、環境に優しく低コストなろ過システムとして機能するというわけです。
もちろん、それら汚染物質が分解されて無くなるわけではありませんが、ミジンコが集めてくれることで、自然界に放出される化学物質の量が減ります。
結果として、私たちが摂取する水や食物への混入を防ぐはずです。
ミジンコは、休眠卵(耐久卵)とよばれる低温・乾燥に耐える卵を作ることができ、その卵は環境が整うまで何十年も休眠します。
つまり年月を経た休眠卵に水をかけて孵化させることで、数十年前を生きたミジンコ群を復活させられるわけです。
研究チームは、この特性を利用して、化学物質をよりろ過してくれるミジンコ群を探すことにしました。
彼らは、水が最も汚染されていた時期や、逆に汚染物質が全くなかった時期など、いくつかの時期のミジンコを試すため、1900年、1960年、1980年、2015年の休眠卵を孵化させて、化学物質のろ過テストを行いました。
その結果、「化学物質に対して、未経験者か、非常に経験豊富な者のどちらかが、ろ過においてより良い仕事をしていた」とオルシーに氏は語っています。
次に研究チームは、優秀なミジンコたちの個体数を増やし、研究室で水処理プラントとしてテストしました。
その結果、ミジンコのろ過システムは、水中に含まれる医薬品「ジクロフェナク」の90%、重金属「ヒ素」の60%、除草剤「アトラジン」の59%、工業用化学物質「PFOS」の50%をろ過することに成功しました。
そして、下水処理場と同じ条件である野外環境でも同様のパフォーマンスを発揮しました。
特に注目できるのは、高い蓄積性があり自然界でほとんど分解されないことから「永遠の化学物質」と呼ばれるPFOSの除去率です。
研究チームは、「PFOSを50%除去するものはまだなく、ミジンコのシステムは既存のろ過システムよりも優れています。しかも他のアプローチは非常に大きなコストがかかり、有毒な副産物も大量に生成されます」と主張。
またこの新しい手法であれば、一度導入するだけで、ミジンコのクローン繁殖の能力によって、システムが維持されるというメリットもあります。
加えて高度な水処理プラントが少ない発展途上国にも導入しやすく、遺伝子編集技術などを加えれば、特定の化学物質を標的にするこも可能かもしれません。
今後の進展によっては、私たちがまさに必要としていた「環境に優しく、低コストで、拡張性のある水処理システム」となるかもしれないのです。
「ミジンコのようだ」という表現が、誉め言葉になる日も近いでしょう。
参考文献
Waterfleas hold key to cleaner environment and better human health https://www.eurekalert.org/news-releases/1002456 Scientists use water fleas to filter pollutants out of wastewater https://www.theguardian.com/environment/2023/sep/26/scientists-use-water-fleas-to-filter-pollutants-out-of-wastewater元論文
Harnessing water fleas for water reclamation: A nature-based tertiary wastewater treatment technology https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969723058515?via%3Dihub