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ヒメコンドルは、タカ目コンドル科に分類される猛禽類です。
(ちなみにハゲタカとは、タカ目のコンドル類とハゲワシ類を合わせた俗称を指します)
全身の黒い羽毛につるっぱげた真っ赤な頭部が最大の特徴で、南北アメリカ大陸に分布し、夏場は北アメリカで過ごして、冬になるとコロンビアやエクアドルまで南下します。
他のハゲタカと同じように動物の腐肉を主食とし、鋭い嗅覚を頼りに上空から死体を探します。
専門家によると、10キロ以上先の腐肉の匂いまでキャッチすることができるので、他種のハゲタカはおこぼれを頂くため、ヒメコンドルの後についていくことがよくあるといいます。
ヒメコンドルはその見た目や食生活から不気味なイメージを持たれがちですが、実はスカベンジャー(腐肉食者)として地上の生態系維持に多大な貢献をしているのです。
死んだ動物の腐敗した肉はさまざまな病原菌の温床となっており、そのまま放置されると野生動物や家畜、そして人間へと病原菌が蔓延する恐れがあります。
ところがスカベンジャーであるヒメコンドルは、鋭い嗅覚でいち早く腐肉の場所を察知し、直ちに駆けつけて食べ、病原菌が生態系に広まるのを防いでくれているのです。
また彼らには好き嫌いがなく、牛や鹿、アルマジロやスカンク、七面鳥やウッドチャックなど、どんな腐肉でも処理してくれます。
その際、彼らは腐肉の中に顔をグリグリと突っ込むため、羽毛に病原菌が絡みつく危険性があります。
そこで頭ごとつるっぱげにしておくことで、前もって有害な菌が羽毛に付着しないようにしているのです。
菌が付着したとしても、羽毛がないことで日光が皮膚に直接当たるため、効率的な殺菌もできます。
彼らはよく日光の下で翼を広げる行動をとりますが、これは体の羽毛の殺菌をしていると考えられています。
しかし体の表面は大丈夫だとしても、腐肉を食べると病原菌が体内に入ってしまいますが、その点は問題ないのでしょうか?
ヒメコンドルは病原菌まみれの腐肉を食べても、まったく心配ありません。
というのも彼らは酸性度の高い強力な胃酸を持っているからです。
これまでの研究で、ヒメコンドルの胃酸はコレラ菌や炭疽菌、結核菌やサルモネラ菌、ボツリヌス菌や狂犬病ウイルスなど、非常に有害な病原体を殺せることが分かっています。
そのおかげで、バイ菌まみれの腐肉でも難なく摂取することができるのです。
どれくらい強いかをpH(水素イオン濃度)で見てみましょう。
一般的にpH7を中性とし、pH7以上になるとアルカリ性、pH7以下になると酸性です。
私たちヒトの胃酸はだいたいpH1~2あたりですが、ヒメコンドルを含むハゲタカの胃酸はpH0.2と異常な強酸性になっています。
そしてヒメコンドルは、この強力な胃酸を一種の武器として利用しているのです。彼らは食事をジャマされたり、身の危険を感じると、部分的に消化された腐肉と強力な胃酸を混ぜた「ゲロ鉄砲」を吐きつけます。
有害な腐肉に加えて、皮膚が溶けるかもしれないゲロ鉄砲は相手を怯ませるのに打ってつけの武器です。
また彼らはゲロ鉄砲を最大3メートルの距離まで飛ばすことができます。
この習性は赤ちゃんの頃からあり、ヒメコンドルの飼育員にとっては大きな悩みのタネになっているそうです。
ちなみに、糞尿にも強酸が混ざっており、彼らはそれを自らの足にかけることで消毒をする習性も持っています。
このようにヒメコンドルは強力な胃酸を食事から護身術、消毒に至るまで、シチュエーションに応じて使い分けているのです。
加えて、彼らの胃酸は私たち人間を含む生態系を危険な病原菌から守ってくれてもいるのでしょう。
参考文献
Turkey vultures have the ultimate self-defense technique: projectile vomiting
https://www.popsci.com/science/turkey-vultures-projectile-vomit-in-self-defense/
Why do Vultures Self Defense Vomit?
https://blog.walkingmountains.org/curious-nature/international-vulture-awareness-day
Turkey Vulture
http://naturemappingfoundation.org/natmap/facts/turkey_vulture_712.html
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。