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ブラジルに生息するクモ(Phoneutria nigriventer)はバナナの葉によくみられるため、地元ではバナナスパイダーとして知られています。
呑気そうな名前とは裏腹に、バナナスパイダーには毒があり、噛まれると極度の痛み、震え、けいれん、多量の発汗、脱力感、心拍数の変化など、さまざまな症状を引き起こし死亡する場合もあります。
しかし男性が噛まれた場合には、奇妙なことが起こります。
ペニスがずっと勃起したままになる持続勃起症が発生するのです。
原因はクモ毒に含まれる「血行促進効果」です。
バナナスパイダーは毒に血行促進効果のある成分を加えることで、獲物の全身に素早く毒をまわるようにする即効性を強化していたのです。
そしてこの血行促進効果が人間の男性に働くと、特にペニスの海綿体に大きな影響を与え、持続的な勃起が起こってしまうのです。
(※男性のペニスには海綿体という血液を含んで膨張する部分が存在します)
そこでミナス・ジェライス連邦大学の研究者たちは、このクモ毒に含まれる血行促進効果を利用して、勃起不全治療薬を作ることにしました。
クモ毒には数多くの成分が含まれており、それぞれユニークな仕組みで獲物の体にダメージを与えます。
しかし血行促進効果そのものは、毒ではありません。
そのためもし他の毒素を除去し、血行促進効果を与える成分だけを抽出できれば、勃起不全治療薬になる可能性があります。
結果「PnTx2-6」と呼ばれるタンパク質に血行促進効果があることが判明。
(※「PnTx2-6」は一酸化窒素を作る一酸化窒素合成酵素でした。一酸化窒素には筋肉を弛緩させ末梢血管を拡張する作用があります)
そこで研究者たちは「PnTx2-6」の中で血行促進において主な役割をしている部分を参考に、新たによりコンパクトな「BZ371A」と名付けられたタンパク質を人工合成し、動物実験を行いました。
すると興味深いことに「BZ371A」はペニス表面に塗布した場合、塗布された部分に限って血流を増加させる効果があることがわかりました。
たとえばオスマウスのペニスに「BZ371A」を塗布した実験では、オスマウスのペニスでのみ血流を増加させ、勃起させることができました。
さらに勃起中のオスマウスの血液を調べたところ、血中には「BZ371A」がほとんど検出できず、勃起以外の副作用もみられませんでした。
この血中に分散しないという特性は極めて重要です。
バイアグラなど既存の勃起治療薬は服用すると血液に乗って全身に巡ってしまうため、低血圧・倦怠感・頭痛などが発生し、およそ30%の人々は使うことができません。
しかし「BZ371A」は血中に拡散せず、塗られたペニスでのみ効果を発揮するため、副作用の心配がありません。
そして「BZ371A」を使った勃起は、(性的な)刺激なしに発生します。
既存のバイアグラでは、前立腺がんなどの手術で神経に損傷を受けている男性には効果がみられない場合がありました。
ですが純粋に血流増加のみを引き起こす「BZ371A」使えば、刺激のあるなしにかかわらず海綿体に血が集まり、勃起が可能になります。
そうなると残る問題は「ペニスに塗布して使う」という部分です。
というのも、性行為では往々にして相手がいるからです。
言うまでもありませんが「BZ371A」を塗ってペニスを勃起させる目的は、基本的に性機能に障害のある人の性行為をサポートする点にあります。
そのため「BZ371A」は女性に対する安全性も検証されなければなりません。
そこで動物実験での安全性を確かめた上で、人間の男女の被験者を使った臨床試験が行われました。
結果、「BZ371A」を塗ったペニスを女性器に挿入しても、女性に健康上の問題は生じないことが示されました。
薬を塗布したペニスを口に含むなどした場合の影響も気になるところですが、これについては現状報告はなされていません。
一方で、「BZ371A」を女性のクリトリスに塗布してみたところ、ペニスと同様に勃起が起こることが示されました。
この結果から研究者たちは、女性の性的興奮障害についても「BZ371A」を使用できる可能性があると述べています。
女性のインポテンツは社会的な認知が進んでおらず適切な治療は行われていません。
実際、ペニスの勃起不全と違いクリトリスの勃起不全に対する関心度は低いと言えるでしょう。
しかしクリトリスの勃起機能は、女性が性的快楽を感じるのに重要であり、女性のインポテンツの治療についても今後は考えていく必要があるとされます。
「BZ371A」はこうした問題に対処する際にも役立つ可能性があります。
また研究では、バイアグラなど既存の勃起治療薬と「BZ371A」を併用した場合の影響も調べられています。
結果は非常に良好であり、「BZ371A」はバイアグラとの併用で相乗効果があることが示されました。
この相乗効果は「BZ371A」がバイアグラなどとは異なるユニークな仕組みで働くためだと考えられます。
たとえるならば重いペニスの彫像を立てるときに、上から滑車で引き上げるのがバイアグラだとするなら、「BZ371A」は下から油圧ジャッキで押し上げている状態だと言えるでしょう。
一方の仕組みだけでは力不足でも、もう一方の助けがあれば彫像を立てやすくなります。
現在「BZ371A」は臨床試験の第1相での安全性の確認が完了しており、第2相へ向けた準備が行われています。
もしかしたら近い未来の薬局では、飲む勃起治療薬に加えて塗る勃起治療薬も売られているかもしれません。
参考文献
Phase I Trials for BZ371A to Erectile Dysfunction https://biozeus.com.br/f/phase-i-trials-for-bz371a-to-erectile-dysfunction