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私たちには対面での依頼の成功率を過小評価する傾向があるようです。
この現象が生じる理由は、共感力の低下にあると説明されています。
というのも、人々は依頼が上手くいくかどうかの判断を、頼みごとをされる人物の気持ちではなく、自分自分の煩わしさを基準に評価しているのです。
そこで研究チームは、他人への依頼が簡単にできるメールでの依頼の成功率は主に煩わしさの観点から過大評価されるのではないかと考えました。
ウォータールー大学のマフディ氏らは対面とメールでの依頼の成功率を比較しています。
実験に参加したのは、大学生504名です。
参加者は、①メールで依頼を行う人と②対面で依頼を行う人の2つのグループに分かれました。
そして彼らには、10人のあまり面識のない人と連絡を取り(あるいは実際に会い)、性格に関する質問紙に回答するようお願いをしてもらっています。
また事前に相手がお願いを聞き入れる確率を予測し、分析では予測と実際の成功率の差を比較しました。
さて、対面とメールという依頼の形式の違いで、参加者の予測と依頼の成功率に違いはあったのでしょうか。
参加者の事前の予測では、メールでの依頼の方が対面での依頼よりも、頼みごとを聞き入れてもらえる人数が多いと考える人が多く、成功率はメールの方が1.4倍高いと予測されました。
しかし実際に実験を行った結果、メールの依頼は対面の依頼よりも、相手が依頼に従う確率が約30倍以上低くなりました。
これは予測と実際の結果にかなり大きな乖離があります。なぜこのようなズレが参加者たちの中に生じたのでしょうか?
参加者の多くは、本当にメールの方が対面よりも頼みが断られずらいと考えていたのでしょうか?
実はそうではありませんでした。参加者は、メールで依頼をされた人と比較して、対面でお願いをされた人は断ることが難しいことを理解していたのです。
おそらくこの記事を読む多くの人たちも、人に頼み事をするなら、直接会って頼んだ方が有効だと考えるでしょう。
実際、実験結果と予測がこれだけ乖離していることの裏には、参加者たちがあえて誤った予想をしてしまっている可能性が考えられます。
このメールと対面での断りづらさの認識と依頼の成功率の予測のギャップは後続の実験でも確認されています。
これは依頼者が依頼を受ける人の心情を理解できていたにも関わらず、自分自身の対面での依頼を行う煩わしさやメールでの依頼の容易さに焦点を当て、相手が抱く印象については無視していた可能性があります。
この結果は私たちが、面倒な手段を避けるためにわかっていながら作業的に楽な方の成功率が高い(あるいは効果的)と認識してしまう可能性を示しています。
これは会社の会議や、計画書の作成時にも起こる問題かもしれないため注意が必要です。
実際、対面とメールどちらの方が相手の気持ちを察する方ができるかという質問に対し、依頼を受けた側の人は対面の方が相手の心情を理解しやすいと回答していた一方で、依頼した人は違いがないと回答していました。
では、メール以外の電話やZoomでの依頼の成功率がは対面と比べてどうなのでしょうか。
マフディ氏ら研究チームは、電話やビデオ通話、音声メッセージなどさまざまなコミュニケーションツールでの依頼の成功率を調べています。
実験では、大学生888名を5つのグループに分け(対面 vs ビデオ通話 vs 電話 vs ビデオメッセージ vs 音声メッセージ)、友人5人に短い文章の校正をお願いしてもらいました。
ビデオメッセージと音声メッセージは事前に録画・録音した映像と音声を相手に送ってもらっています。
参加者には事前に依頼を行う5人のうち何人が承諾してくれるのかを予測し、実際の成功率との違いを比較しました。
実験の結果、対面以外の他のコミュニケーションツールの依頼の成功率を過大評価する傾向がありました。
対面の依頼の予測と実際の成功率には違いがなかったのにもかかわらず、他のコミュニケーション・ツールの実際の依頼の成功率は予測の半分程度になりました。
この結果は、テキスト以外の映像や音声などのよりリッチな情報を持つコミュニケーションツールであっても、対面時の説得率には及ばないことを意味しています。
電話やビデオメッセージなどの説得は、依頼者の表情や深刻さなど依頼内容以上の情報を相手に伝達するでしょう。
しかしそれらの情報は対面でなければ、依頼の成功率に寄与しないようです。
なぜ私たちは対面での説得を過小評価し、メールや電話など他のコミュニケーション・ツールでの説得率を過大評価してしまう傾向があるのでしょうか。
研究チームは「依頼をする人は、対面時に頼みごとをされる人が依頼を断りずらいことを認識はしている。しかしその認識を自分が他人に説得をするときの結果の予測時に用いていないのではないか」と述べています。
たしかに電子メールは相手への依頼を行ううえで、対面と比べ、相手との物理的距離や時間的なずれを考慮することなく、使用することができます。
しかし誰かからの頼みごとが自分にメールで来た状況を想像してください。
多くの人はメールで頼み事をされると、「これは本当に重要な事案か?なぜ直接尋ねてこないか」と思い、後回しにしてしまうのではないでしょうか。
研究チームは「電子メールは便利で楽なことが多いが、その有用性を過大評価すると、欠点を認識することなく、説得力が大きく劣った手段を選ぶことになりかねない」と警鐘を鳴らしています。
誰かにお願いをする時には、自分の頼みやすさに焦点を当てるのではなく、相手の断りにくさに重きを置くと良いかもしれません。
参考文献
You’re Less Persuasive Than You Think Over Email https://www.psychologicalscience.org/news/minds-business/youre-less-persuasive-than-you-think-over-email.html元論文
Ask in Person: You’re Less Persuasive Than You Think Over Email https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S002210311630292X Should I Ask Over Zoom, Phone, Email, or In-Person? Communication Channel and Predicted Versus Actual Compliance https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/19485506211063259