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単体の木を加工した例なら他にもっと古いものが別の場所で発見されていますが、今回は木材同士を組み合わせた構造物の証拠として最古と見られています。
2019年に発見されたこの構造物は、一対の丸太が組み合わされた状態で出土しました。
2本の丸太はともにアフリカ南部の川岸に自生する「ブッシュウィロー(学名:Combretum erythrophyllum)」という中〜大型の広葉樹と特定されており、いずれも長さは1メートルを大きく超えています。
丸太の表面には、彫り込みや切り傷、摩擦など、無数の加工跡が見られました。
そして最も注目すべきは、上側の丸太の中央部に意図的な窪み加工が施されていたことです。
この窪み部分を下側の丸太にピッタリと嵌め込むことで、安定した組み合わせが可能になっていました。
これは木材の半分を削り取って、ペアとなる木材に嵌め込む現代の接合方法にも通じます(下図)。
さらに年代測定の結果、丸太は約47万6000年前にまで遡り、木材構造物として最古の証拠となることが判明しました。
その時点ですでに木材の高度な接合技術が習得されていたことを意味します。
しかし最も気になる点は「誰がこの建築物を作ったのか」でしょう。
こんな高度な技術が使えるのはヒト以外ありえませんが、47万年前というと現生種のホモ・サピエンスも近縁のネアンデルタール人もまだ存在していません。
ホモ・サピエンスが登場するのは約20〜30万年前、ネアンデルタールは早くて40万年前です。
では、丸太を組み合わせたのは誰なのでしょうか?
カランボの滝の遺跡では残念ながら、ヒトの遺骨は発見されていません。
しかし有力候補として最も可能性が高いのは、約40〜60万年前に存在した「ホモ・ハイデルベルゲンシス」です。
実際、ザンビアの別の遺跡では約30万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスの頭蓋骨が出土しており、この地域に彼らが住んでいたことが分かっています。
さらに彼らはそれ以前にいたホモ・エレクトスに比べて脳容量が大きく、より人間的な行動を取ることができました。
加えて、ホモ・ハイデルベルゲンシスは大柄で、大人の男性では身長180センチ、体重100キロに達していたと見られています。
頭がよくて体格も大きかったことは、重い木材を運んで加工し、組み合わせる作業をする上で有利に働いたでしょう。
一方で、今回の2本の丸太がどのような用途で使われたのかは未解明です。
研究者らは「何らかの建物の土台の一部である可能性が高い」と推測しています。
もしそれが確かなら、有史以前の原始人たちは単に洞窟だけを住処とするのでなく、木造の一軒家を建てたり、あるいは狩猟の移動先での仮住まいを一時的に建てていたかもしれないのです。
研究主任のラリー・バーハム(Larry Barham)氏は、今回の発見について「初期人類の生活スタイルに関する従来の理解を一新するものだ」と指摘します。
「彼らは知性や技術、想像力を駆使して、それ以前には見たことのないもの、存在すらしていなかったものを自分たちの手で作り出したのです」と話しました。
私たちホモ・サピエンスが誕生する遥か昔から、人類は木を使った豊かな暮らしを送っていたのかもしれません。
参考文献
Archaeologists discover world’s oldest wooden structure https://news.liverpool.ac.uk/2023/09/20/archaeologists-discover-worlds-oldest-wooden-structure/ Evidence of a Wooden Structure That Predates Our Species Uncovered https://www.sciencealert.com/evidence-of-a-wooden-structure-that-predates-our-species-uncovered These ancient whittled logs could be the earliest known wooden structure https://www.nature.com/articles/d41586-023-02928-4元論文
Evidence for the earliest structural use of wood at least 476,000 years ago https://www.nature.com/articles/s41586-023-06557-9