- 週間ランキング
以下では表記を「パクチー」に揃えていますが、ここには「コリアンダー」も含むものとお考えください。
パクチーは非常に古くから食用や薬用として親しまれてきましたが、どうして一部の人々が強い拒絶反応を示すのかは不明でした。
しかしここ十数年の研究で、パクチーの感じ方に「遺伝子」が決定的な役割を果たしていたことが突き止められています。
2012年に米カリフォルニア州を拠点とするバイオテクノロジー企業・23andMeは、約3万人を対象とした大規模研究を行いました。
参加者にパクチーの好き嫌いを評価してもらい、遺伝子を比較分析したところ、パクチー嫌いの多くが嗅覚受容体のひとつである「OR6A2遺伝子」に変異を起こしていることが判明したのです。
さらに調査を進めると、OR6A2遺伝子が変異している場合、パクチーに含まれる「アルデヒド」という匂い成分に敏感に反応して、それと特異的にくっつくことが分かりました。
そしてこのアルデヒドこそ、香り成分として石鹸にも含まれる化学物質なのです。
パクチー嫌いの人は、この石鹸のようなアルデヒドを強く感じてしまうことで、「パクチーは食べ物じゃない」と認識してしまうと考えられます。
逆にOR6A2遺伝子が変異していない人は、アルデヒドの匂いを強く感じないので、パクチーも難なく食べられるのでしょう。
それからパクチーの風味を「カメムシみたいな匂い」と表現する人がたくさんいますね。
「食材に対して失礼だ」と言われるかもしれませんが、実はこれ正しい感覚なのです。
というのもカメムシの放つ独特な匂い成分の中に、先と同じアルデヒド類が含まれているからです。
なのでパクチー嫌いの人は自信をもって「カメムシ味だ!」と言って問題ないでしょう。
さらに23andMeは、パクチー嫌いが発生しやすい人種も特定しています。
先の23andMeの調査では、パクチー嫌いになりやすい人種となりにくい人種が明らかになっています。
それによると、北欧と南欧を含むヨーロッパ系の人々で最もパクチー嫌いが多く、対象者の14〜21%が「パクチーが苦手だ」と報告していました。
次に、アフリカ系アメリカ人が9.2%、ラテン系が8.7%、東アジア系が8.4%でパクチー嫌いが発生しています。
一方で、南アジア系ではパクチー嫌いが3.9%しかいませんでした。
やはりエスニック料理にパクチーを愛用する南アジア系の人々は、パクチーを好みやすいようです。
これと別にパクチーの歴史を遡ってみると、興味深いことに、1500年代〜1600年代にはすでにパクチー嫌いの報告が記録されています。
しかしその当時は「石鹸」や「カメムシ」ではなく、「トコジラミみたいな匂いがする」という苦情が多かったそうです。
トコジラミもアルデヒド臭を出すことが知られますが、これは当時の衛生レベルが低くて、人々がトコジラミと接触する機会が多かったこと。
それからアルデヒド成分を合成した石鹸がまだなかったことが原因と指摘されています。
逆に社会の衛生レベルが高まって、人々が日常的に石鹸を使うようになってから「パクチー=石鹸の匂い」と変わっていったようです。
またアルデヒド成分を含む食材はパクチーの他に、シナモンやバニラなどがあります。
両方ともスイーツの風味づけや香水として人気ですが、苦手な人はおそらく、アルデヒドの匂いに敏感に反応しているのでしょう。
パクチー嫌いの方はもしかしたらシナモンとバニラも苦手なのではないでしょうか?
参考文献
Why do some people think cilantro tastes like soap? https://www.livescience.com/health/food-diet/why-do-some-people-think-cilantro-tastes-like-soap Cilantro Love and Hate: Is it a Genetic Trait? https://blog.23andme.com/articles/cilantro-love-hate-genetic-trait元論文
Prevalence of cilantro (Coriandrum sativum) disliking among different ethnocultural groups https://flavourjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/2044-7248-1-8(2012) Coriander (cilantro): A most divisive herb https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1878450X2300121X(2023)