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そこで研究チームは、心身の健康や脳機能に影響を及ぼすことが明らかになりつつある「腸内フローラ(腸内細菌叢)」に注目しました。
成人を対象とした近年の研究では、腸内フローラの不健康が体の病気だけでなく、精神疾患(うつ病や不安症)の発症リスクを高めることが分かっています。
ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内フローラの基盤は3〜5歳頃までに決まることです。
先に述べたように、この年齢は感情コントロールの顕著な発達が見られる時期と重なっています。
つまり、同時期に発達する「腸内フローラ」と「感情制御」は双方的に大きく関連している可能性があるのです。
にも関わらず、幼児を対象とした双方の比較研究はほとんど行われていませんでした。
そこでチームは今回、幼児の感情コントロール力に腸内フローラの健康が関係しているか調べることにしたのです。
本研究では、日本全国の保育園・幼稚園・子ども園に通う3〜4歳の幼児257人を対象に便サンプルを採取し、腸内フローラの組成を調べました。
また腸内フローラの組成は普段の食生活に大きく依存しており、特に腸内フローラが安定化するまでの乳幼児期には、食事の影響がきわめて強いと指摘されています。
そこで幼児の母親に協力を依頼し、子供の食生活習慣および感情制御についてアンケート調査に回答してもらいました。
食生活習慣については、便の採取日の直近一週間で子供が食べた食品(24項目)の摂取頻度と、偏食(好き嫌い)の有無を評価します。
感情制御については、日常の問題行動(63項目)に対し、該当する行動が最近6カ月内にどれほど子供に見られたかを評価します。
そして全データを比較分析した結果、情緒が不安定で感情制御が苦手なグループに分類された子供たちは、感情コントロール力の高い子供たちに比べて、腸内フローラに「アクチノマイセス属(Actinomyces)」と「サテレラ属(Sutterella)」の割合が多いことが判明したのです。
以前の研究で、これらの菌が多いほど、体内の炎症性疾患のリスクや血中の炎症指標(サイトカイン)が高まることが知られています。
また成人を対象とした研究で、腸内の炎症が精神疾患(うつ病・不安症)のリスク増と関連していることが分かっているため、これらの菌の多さが子供の感情制御の発達を妨げている可能性が非常に高いです。
それから、情緒の不安定な子供では、一週間あたりの緑黄色野菜の摂取頻度が感情コントロールに長けた子供に比べて低く、好き嫌いの割合も高いことが分かりました。
このことから、食生活の乱れが炎症性疾患の要因となる菌の増加を腸内で引き起こしていると考えられます。
今回の研究は、幼児期の感情コントロールの難しさが腸内フローラと関係していること、その背景に食生活の乱れがあることを示した世界初の成果です。
これらの結果を踏まえると、幼児期の好き嫌いをなくすことで、子供たちの感情コントロール力を改善できるかもしれません。
チームは次のステップとして、今回得られた知見の因果関係を動物実験で検証していくと話しています。
参考文献
幼児期の感情制御は腸内細菌叢と関係する- 腸内細菌叢を活用した新たな発達支援を目指して- https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-09-06元論文
Altered Gut Microbiota Composition Is Associated with Difficulty in Explicit Emotion Regulation in Young Children https://www.mdpi.com/2076-2607/11/9/2245