情緒が不安定なお子さんは、腸内環境に原因があるかもしれません。

近年の研究で、腸内フローラ(腸内細菌叢)は体のみならず、心の健康(うつ病や不安症)にも大きく関与していることが明らかになっています。

そんな中、京都大学と大阪大学の研究チームは、日本に住む3〜4歳の幼児を対象に「腸内フローラ」と「感情コントロール」との関連性を調査。

その結果、感情コントロールが苦手な子供ほど、腸内に炎症性疾患と関連する菌が多く存在することが明らかになりました。

さらに、その元凶は野菜を食べないなどの「好き嫌いの多さ」にあったようです。

研究の詳細は、2023年9月6日付で科学雑誌『Microorganisms』に掲載されています。

目次

  • 子供の情緒に「腸内フローラ」が関係している?
  • 情緒不安定な子供ほど、炎症を引き起こす菌が多かった

子供の情緒に「腸内フローラ」が関係している?

自らの感情や欲求をコントロールする「感情制御」は、年齢を問わず大切な能力です。

ヒトの感情制御は3〜4歳頃の幼児期に最初の顕著な発達があらわれます。

これはこの時期に起こる脳(前頭前野)の急激な成熟と密接に関係していると言われています。

また過去の大規模研究で、幼児期の感情制御の発達は、将来(成人期)の経済力や心身の健康にも深く影響することが示されていました。

一方で、幼児期の感情制御には、公共の場で大人しく座っていられる子もいれば、大声で泣きわめく情緒の起伏が激しい子もいるように、大きな個人差があります。

しかし現時点で、何がその個人差を生み出しているのかは不明のままです。

従来の多くの研究は、個人差の原因を探るために、家庭の経済状況や学歴といった社会学的な側面にスポットを当ててきましたが、確たる証拠は得られていません。

Credit: canva

そこで研究チームは、心身の健康や脳機能に影響を及ぼすことが明らかになりつつある「腸内フローラ(腸内細菌叢)」に注目しました。

成人を対象とした近年の研究では、腸内フローラの不健康が体の病気だけでなく、精神疾患(うつ病や不安症)の発症リスクを高めることが分かっています。

ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内フローラの基盤は3〜5歳頃までに決まることです。

先に述べたように、この年齢は感情コントロールの顕著な発達が見られる時期と重なっています。

つまり、同時期に発達する「腸内フローラ」と「感情制御」は双方的に大きく関連している可能性があるのです。

にも関わらず、幼児を対象とした双方の比較研究はほとんど行われていませんでした。

そこでチームは今回、幼児の感情コントロール力に腸内フローラの健康が関係しているか調べることにしたのです。

情緒不安定な子供ほど、炎症を引き起こす菌が多かった

本研究では、日本全国の保育園・幼稚園・子ども園に通う3〜4歳の幼児257人を対象に便サンプルを採取し、腸内フローラの組成を調べました。

また腸内フローラの組成は普段の食生活に大きく依存しており、特に腸内フローラが安定化するまでの乳幼児期には、食事の影響がきわめて強いと指摘されています。

そこで幼児の母親に協力を依頼し、子供の食生活習慣および感情制御についてアンケート調査に回答してもらいました。

食生活習慣については、便の採取日の直近一週間で子供が食べた食品(24項目)の摂取頻度と、偏食(好き嫌い)の有無を評価します。

感情制御については、日常の問題行動(63項目)に対し、該当する行動が最近6カ月内にどれほど子供に見られたかを評価します。

そして全データを比較分析した結果、情緒が不安定で感情制御が苦手なグループに分類された子供たちは、感情コントロール力の高い子供たちに比べて、腸内フローラに「アクチノマイセス属(Actinomyces)」「サテレラ属(Sutterella)」の割合が多いことが判明したのです。

以前の研究で、これらの菌が多いほど、体内の炎症性疾患のリスクや血中の炎症指標(サイトカイン)が高まることが知られています。

Credit: 京都大学 –幼児期の感情制御は腸内細菌叢と関係する(2023)

また成人を対象とした研究で、腸内の炎症が精神疾患(うつ病・不安症)のリスク増と関連していることが分かっているため、これらの菌の多さが子供の感情制御の発達を妨げている可能性が非常に高いです。

それから、情緒の不安定な子供では、一週間あたりの緑黄色野菜の摂取頻度が感情コントロールに長けた子供に比べて低く、好き嫌いの割合も高いことが分かりました。

このことから、食生活の乱れが炎症性疾患の要因となる菌の増加を腸内で引き起こしていると考えられます。

Credit: 京都大学 –幼児期の感情制御は腸内細菌叢と関係する(2023)

今回の研究は、幼児期の感情コントロールの難しさが腸内フローラと関係していること、その背景に食生活の乱れがあることを示した世界初の成果です。

これらの結果を踏まえると、幼児期の好き嫌いをなくすことで、子供たちの感情コントロール力を改善できるかもしれません。

チームは次のステップとして、今回得られた知見の因果関係を動物実験で検証していくと話しています。

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参考文献

幼児期の感情制御は腸内細菌叢と関係する- 腸内細菌叢を活用した新たな発達支援を目指して- https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-09-06

元論文

Altered Gut Microbiota Composition Is Associated with Difficulty in Explicit Emotion Regulation in Young Children https://www.mdpi.com/2076-2607/11/9/2245
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 子供の感情発達と「腸内細菌叢」の関連が明らかに!好き嫌いが多いと情緒不安定に