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アズレンの歴史は古く、その発見にはハーブの「カモミール」が関わってきます。
カモミールの花から得られる精油の蒸留は古くから行われており、15世紀にはその精油が鮮やかな青色を示すことが知られていました。
そして1863年、イギリスの調香師がこの鮮やかな青い成分だけを単離(混合物の中から特定の成分や物質を取り出すこと)することに成功し、その物質に「アズレン」という名前をつけたのです。
名前の由来は、この鮮やかな青色に由来しており、スペイン語で青を意味する「azul(アズール)」から取られました。
語尾の「-ene」は化合物の命名規則によるもので、炭素の二重結合を含む場合に付けられ、縮合多環炭化水素の基礎成分は全て語尾に「-ene」がつけられています。
そのため「azul(アズール)」の語尾に「-ene」をつけて、アズレン(Azulene)という名前になったのです。
アズレンの合成は現在でも難しい技術であるため、単価は250mgで1万2000円程度(2023年9月現在)と比較的高価で取引されています。
アズレンはユニークな環状構造を持つことから、他の多くの環状炭化水素とは異なる特性を持っています。
このアズレンの基本構造を基にして生成される化合物を「アズレン誘導体」といいます。これらの誘導体は、アズレンの特徴的な構造を維持しつつ、異なる性質や機能を持つことができることで注目されています。
アズレンはその化学的な性質から、さまざまな効果や用途で注目されています。
まず、アズレンには体内の炎症を抑制する抗炎症効果があり、「点眼薬」「うがい薬」「胃潰瘍の薬」などとして用いられてきました。
また、半導体に似た性質をもつことから、電子工学材料としても注目されています。
現在、多くの電子機器に使われている半導体はシリコン材料が主流ですが、コストや環境への影響から有機半導体が注目されています。
アズレンは電子が動きやすい性質を持ち、新しい有機半導体の材料としての可能性が探られているのです。
さらに驚くべきは、アズレン誘導体には抗がん活性を示す化合物があることが判明し、山口博士ら研究チームは、がんの予防や治療に効果が期待される化合物の研究を進めています。
具体的には、がん細胞にこれらの化合物を接触させ、どれだけ効果的にがん細胞の活動を抑えることができるかを調査しており、この重要な研究成果は、2021年に『FEBS Open Bio』という専門の科学ジャーナルに掲載されています。
研究チームは、鈴木-宮浦クロスカップリング反応(※2)という技術を使って、アズレンとピリジンという化合物との置換反応を行いました。
その結果、「アズレニルピリジン」という新しいアズレンの化合物を作り出すことに成功したのです。
興味深いことにこの新しい化合物は、中性溶液と酸性溶液では色が変わるなどの特性があります。
研究チームは今後、この新しい化合物が電子機器の材料としての適性を調べていく予定です。
(※2:鈴木-宮浦クロスカップリング反応は、異なる有機化合物の炭素同士を結合させる反応で、その中で触媒として有機ホウ素化合物を使用するものを鈴木・宮浦クロスカップリング反応と称します。この反応を開発した北海道大学の鈴木章名誉教授は、2010年にその業績でノーベル化学賞を受賞しています)
アズレンは特殊な形をしており、7つと5つの炭素の環がくっついた形をしています。
これを7-5-7-5…と連続してつなげるのは大変難しく、今のところ、7-5-7までの形にしか作れていませんが、もし7-5-7-5の形に成功すれば、それは世界初の偉業となります。
研究チームは、ギネス記録を目指してこの大変な課題に日々チャレンジしています。
アズレンといえば、スマホゲーム「アズールレーン」を思い浮かべる一般には多いかもしれませんが、科学と医学の世界のアズレンは深い歴史があり、多くの可能性を秘めている興味深い物質です。
この物質の今後の研究が、医学や科学の分野において、どのような新しい発見や応用をもたらすのか、注視していきましょう。
参考文献
色々変化で新技術への夢が広がる! アズレン誘導体の魅力(新物性化合物合成研究所 研究所長/教授 山口 淳一) https://www.kait.jp/tech_news/2495.html