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そこに含まれるケラチンという繊維状のタンパク質が水分を吸収し、保持するのに役立つのです。
そしてこれら角質層は、長時間水に触れることで、多くの水分を吸って膨張するとも言われています。
しかし角質層より下の層は水分で膨張しないため、上層だけが余り、それがシワをつくるというのです。
また手足の指先だけがシワシワになりやすいのは、これらの部位の角質層が厚いからだと考えられていました。
ところが1930年代の研究者たちは、指にシワが寄らない人の共通点を発見しました。
なんと、指の神経を損傷している人たちには、入浴後にシワが形成されなかったのです。
このことは、指のシワの原因が角質層だけでなく、神経にもあることを示唆しています。
そして2004年のワイルダー・スミス氏の研究や、その他の研究者たちの取り組みによって、指のシワの原因には、神経系が作用していると分かりました。
私たちの体は、自律神経系の働きによって無意識に機能しています。
例えば、心臓の鼓動、まばたき、瞳孔の収縮などが該当します。
同様に、血管の拡張と収縮も、温度や飲食、薬などの効果で、無意識に生じます。
そしてこの血管の収縮は、長時間水に浸かった時にも生じることが分かっています。
まず、手や足が数分以上水に浸ると、皮膚の汗の管が開き、皮膚組織に水が流れ込みます。
この水によって組織内の塩分濃度が減少。神経系がその情報を脳に送ります。
そこで自律神経系は、その塩分濃度の減少に反応して、血管を収縮させるのです。
手足の血管が収縮するとどうなるでしょうか。
血管の体積が小さくなるため、組織全体の体積も小さくなります。
そうなると表面の皮膚が余ったり、下に引っ張られるようになったりします。
結果として、内部の水分を失ったブドウがシワシワのレーズンになるのと同じく、内部の体積が小さくなった指もシワシワになるのです。
仮に指の神経を損傷していると、情報伝達がなされないため血管が収縮することはなく、長時間お風呂に入ったり、プールで泳いだりしても指にシワはできません。
これらの点から、「どうして長時間水に浸かると指にシワが寄るのか」という疑問には、今のところ、「神経系が血管を収縮させるから」という答えが有力だと言えるでしょう。
もちろん、これまでずっと考えられてきた「角質層が水分を吸収する」説も否定されたわけではなく、両方とも要因の1つなのかもしれません。
ちなみに、指がシワシワになるメリットについては、2013年のキリアコス・カレクラス氏らの研究で、「水中でのグリップ力が向上する」ことを発見しています。
水没した物体45個を手で拾い上げる実験で、事前に指をふやかしてシワが寄った状態にした方が12%早く課題を完了できたのです。
これが偶然なのか水中での適応なのかは分かりませんが、水中で作業する必要がある場合は、手のシワがいくらか役に立つでしょう。
とはいえガイ・ジャーマン氏によると、湿った環境で長時間作業することで「浸漬足症候群(immersion foot syndromes)」という皮膚損傷が生じるようです。
軍人や水田で作業する農家が患う傾向にあり、長期間にわたって水に浸かり続けるなら、同様のリスクを抱えることになるでしょう。
指にシワが寄るのは、神経系が関わる興味深い現象であり、作業上のメリットもいくらかあるようですが、だからといって水に浸かり過ぎるのもオススメできません。
やはり「夏のプール」や「疲れを癒す温泉や長風呂」くらいの程度が丁度良いのでしょう。
参考文献
Why do fingers get wrinkly after a long bath or swim? A biomedical engineer explains
https://theconversation.com/why-do-fingers-get-wrinkly-after-a-long-bath-or-swim-a-biomedical-engineer-explains-204726
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部